ラグビー日本戦前日MTGに現れた1人の男 原辰徳、ペップを訪ねたエディーHCも唸った「勝利へのマインドセット」
試合前日にミーティングに招かれた池透暢が語った言葉
昨年のW杯を経験して、神戸Sではすでに主力メンバーに定着する李だが、今年1月に23歳になったばかりの若手選手だ。サモア戦の平均キャップ数にも触れたが、チームも先発15人の平均年齢も24歳台。23年W杯最終戦となったアルゼンチン戦の30歳という平均年齢から大幅に若返る。将来への期待も大きいが、経験不足という負の要素も多分にある。テストマッチの激しいプレッシャーの中でのパス1つの精度や、フィジカルの脆さなども祟り、新体制始動からのテストマッチ3連敗など試練も味わわされてきた。
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技術面、戦術面の未熟さと同時にエディーが選手に求めるのが、ラグビーに向き合う時の謙虚さや真摯な姿勢だ。プレーやスキルの向上は日々コーチ陣が受け持つ一方で、代表としてのマイドセットの強化にも余念がない。サモア戦キックオフ前の秩父宮ラグビー場で、車椅子ラグビー日本代表のパリ・パラリンピック金メダル獲得を祝うセレモニーが行われ池主将が招かれていた。この機を逃さず、エディーは同主将を試合前日にチームへ招き、スピーチを依頼した。
同じラグビーという名称以外で、そもそも車椅子ラグビーと15人制代表の繋ぎ役となっているのが、第1次エディージャパンで初代主将を務めた廣瀬俊朗さんだ。車椅子ラグビー連盟の理事を務め、エディーの復帰と共に15人制代表チームディレクター補佐に就いたこともあり、今回のサモア戦前の池主将のセレモニーと代表チームとの交流が実現した。池主将は、こう経緯を振り返る。
「僕たちのパリ・パラリンピックの決勝戦の前に、15人制日本代表の皆様から頑張れというメッセージビデオが届いて、それを皆で共有してすごく力を頂き、金メダルにも繋げることが出来ました。それを感謝する気持ちもあって、日本代表にスピーチしに来てくれないかというお声がけを頂きました」
“ラグビー“と名の付く日本代表で、7人制も15人制も到達したことのない最高位に上り詰めた池主将は、車椅子ラグビーをプレーする価値をこう語っている。それは、エディージャパンの若い選手たちへ投げ掛けたメッセージのように聞こえる。
「自分たちのスポーツは、全員が手足に障害を持っています。間違いなく出来ないこともあるんですね。その出来ないことを出来るようにするためには自分の力も必要ですけれど、仲間の力だったり、スタッフの力、いろいろな人の力を借りながら目的、目標を成し遂げることが必要です。なので、必然的に感謝というものと、一緒にやっていくためのワードが無数に出てくると感じながらやっています。配慮も必要ですし、ラグビー、スポーツを通じて成長させてもらったので、スポーツの色々な場面で自分の感じたことも話しながら、またスポーツの発展に貢献していきたいと思っています」
プロ野球・読売ジャイアンツを日本一に導いた当時の原辰徳監督や、サッカーで世界最強と謳われたバルセロナを率いたジョゼップ・グアルディオラ監督ら、成功を収めた指導者、チームを訪ね、勝利のためのヒントを常に模索してきたエディーにとっては、様々な困難を乗り越えて、世界一の高みに立った池主将の経験と言葉は、最高のヒントであり、願ってもない選手たちへの金言になった。
「いまの日本代表のような若い選手たちにとっては、いかに日々の感謝の気持ちを持ち続けることが出来るか、いかに自分たちが恵まれた環境にいるかという自覚が、どうしても薄れてしまう部分がある。現在練習を続ける宮崎に関しては、ワールドクラスの素晴らしい施設が整っています。そして、日本代表でプレーするというチャンスを得たということを自覚して、それを感謝することがとても大事です。今回スピーチしていただいた池さんは、事故で友人を失い、腕や肩が思うように使えないという状況を話していただく中で、毎日プラスの部分を見つけて、伸ばしていくという話を聞かせていただきました。そういった前向きな姿勢を聞くことに、選手は集中して耳を傾けていました。池さんの持つ謙虚さ、真剣さ、誠実さというものは学ぶべきところが多かったと思う」
エディーからPNCでの主将を託される立川主将は、スピーチを終えた池主将と同じテーブルで昼食を共にしている。
「どういうリーダーシップを持っているのかという話をして、やはり自分らしさを忘れずにやっていくことが大事だと聞きました。それは僕にも通じるところもあったので、すごくためになった。何事も当たり前ではない状況から、常に前向きに取り組む姿というのは、選手たちも凄く刺激を受けたと思いましたし、今日の試合へ向けた意識の中にもそういう思いがすごくあったと思うので、いいタイミングでお話しできたと思います」