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日本人の社員選手は「傷の舐め合い」 V舞台裏で…“企業ラグビー”が燻るリーグワンで断行した改革――BL東京GMインタビュー

ブラックアダーHCに求めたのは「勝つこと」にこだわる姿勢

 14シーズンぶりの優勝には、チームを5シーズンに渡り強化を進めてきたトッド・ブラックアダーHCの存在は欠かせなかった。NZ代表主将、そしてクルセイダーズの黄金時代を率いたカリスマリーダーを、薫田GMはこう評価する。

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「トッドが突出しているのは、人を信じること。うまくコーチングチームを回し、俯瞰した立場で、個々に役割を与えてきたことが機能したと思う。新しいディフェンスコーチのタイ・リーバらの良さを引き出したのもトッドの手腕。選手に対しても、しっかりと話を聞くタイプ。対話を重んじて、哲学的に話をするのも良さですが、そこをラグビーのプレー面でそれぞれのコーチが埋めていく。そういう関係性を上手く機能させていた」

 ブラックアダー・薫田コンビの信頼関係は厚いが、この指導者に全てを放り投げて強化を任せたわけではなかった。

「哲学者タイプの指導者の特徴ですが、0とか100とかをはっきり言わない。良く言えば各リーダーに任せ、俯瞰してみることに良さがある一方で、日本のチームで、そのやり方だけでどこまで選手たちに響くのかという話は何回もしてきました」

 GM自身が監督として勝つチームを率いた経験も踏まえて、ブラックアダーHCのチームへのアプローチが、果たして日本でも適切なのかという疑問があった。個々が高い経験値、スキルを持ったNZやイングランドならオーケーかも知れない。だが、日本でどこまでブラックアダー流で勝つチームになれるのか――そんな疑問を常にHCにぶつけながら、強化が進んだ。

「実は、今までのトッドのキャリアをみると、HCとしては一度も優勝してない。トッドを見ていて感じたのは、いわゆる最後の最後で勝つ時の勝負師という部分をおそらく失っているのかなということです。ただしウイニングカルチャーというのは、オールブラックスやクルセイダーズのキャプテンで、わかっているはずなんです。それをなぜHCとして出せないのかと、ずっと思っていたんです」

 GMとして現場に求めたのは、「勝つこと」にこだわる姿勢だった。

「22-23年シーズンの前のことです。トッドはミーティングとかでも、選手に優勝しようとかチャンピオンになれとは言わないんです。その代わり、我々は日本で一番優れたチームになろうと話していた。だから、そんな事を話しても、日本人には響かない。だから、チャンピオンを目指すという意思を選手に伝えるべきだと話したんです。その後のミーティングから、トッドもチャンピオンという言葉をバンバン使っていた。それからですね、チーム全体が具体的に優勝をターゲットとして見据えたのは」

 選手に明確な目標を提示すること、勝ちたいという思いをしっかりと伝えることがいかに大切か。これは日本のラグビー界で成功体験を持つ薫田GMだから出来た助言であり、チームに正しい方向性を持たせたのだろう。同時に、GMとして昨季はコーチ陣に明確に伝えたメッセージもあった。

「選手の成長と、勝負できるという感触は 首脳陣の中に昨季は絶対あったんですよ。 後は、ずっと トッドにプレッシャーをかけたのは、2023-24年のシーズンにオーナーに対して、ファンに対して、いわゆるステークホルダーに対して、自分たちの存在意義を示さなきゃいけないということでした。トッドたちが思ってる以上に示さなきゃいけないんだとね。勝負師として我々は今年勝負する、何が何でも勝つということです。そういうものは選手の前では言わないですけど、トッドにはすごく話しましたよ。お前は優勝して男になるしかないんだとね」

 自分自身の経験値、それに裏打ちされた信念を、相手がどんな経験値があるか、ないのかに関係なく、しっかりとぶつけることが出来るのが、このGMならではの資質だろう。GMという立場で考えれば、やるべき事は明白だった。グラウンドの外を見れば、東芝グループとしての苦境は続いている。東京SGとのプレーオフ準決勝3日前の5月16日には、東芝本社が最大4000人の従業員削減を発表。本社機能も東京・港区から神奈川・川崎市に移行する。昨年末の非上場化に続き、再建への模索が続いている。この状況の中で、チームがどんな貢献を出来るのか。GMの中での答えは明確だったはずだ。

「決して予算が減っているわけではないし、大幅に増えたということもない。身の丈に合った中での強化で、なおかつ結果を残すことが全てだと思ってやってきました。こういう状況で、我々にオーナーが投資をしている意義というのをしっかりと認識して戦う必要はありましたね。問われていたのは、新生東芝の強いシンボルとしての存在意義です。だからチーム内では『強さを示そう』と話してきました。強さというのは勝つだけじゃなくて、逆境を跳ね除ける力をグランド上のパフォーマンスで示すことです。その結果として、優勝しなきゃいけなかったんです」

 そんなチームとして背負うミッションを、海外からやって来たプロコーチ、選手にもしっかりと伝え、逆境の中で戦い、勝利を掴んだBL東京のストーリーは、大スポンサーである母体企業にとっても最高の“リターン”になったはずだ。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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