日本人の社員選手は「傷の舐め合い」 V舞台裏で…“企業ラグビー”が燻るリーグワンで断行した改革――BL東京GMインタビュー
断行した意識改革「悪い言い方をすると、社員選手は傷の舐め合いをしている」
GMも認めるモウンガの加入が、BL東京を「勝つチーム」に変貌させたのは間違いない。だが、この司令塔が動かす“駒”がしっかり機能しなければ、優勝まで辿り着けたかは分からない。決勝戦で優勝を決めるトライをマークしたCTB森勇登は、ほぼ全ての試合でメンバー入りしながら、その半数以上はベンチスタート。しかし、チーム関係者から「出れば必ず何かやってくれる」と評価されるように、攻守に好判断のプレーをみせ、出場時間が限られる中でチーム2位の8トライをたたき出している。
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モウンガの加入で、SOからほぼ経験のなかったFBに定着した松永拓朗、激しいフィジカルとスピードで魅せたWTB桑山淳生、そしてBK級のスピードが武器のFL佐々木剛らも、森と同様に入団4年目以内の若手選手。チーム、母体企業が苦境の中で、府中にやって来た。この若手の成長の背景にあるのが、選手の意識改革に他ならない。チームを現状よりもさらにワンステージ高いレベルに上げるためには避けて通れない挑戦だ。たとえ社員選手だとしても、どこまでプロ選手と同等の向上心、意識の高さを持って自分を進化させていけるか。そんなマインドセットの向上にGMという立場で力を注いできた。
「悪い言い方をすると、社員選手は傷の舐め合いをしているということです。『いつまで経っても、良い人だけど勝てないね』という選手像が出来上がる中で、どうやってそれを変えていけるかが重要だった」
薫田GMらしい、すこし厳しめの説明だが、プロ化とアマチュアという2つのフィールドの間に横たわる大きな溝については、日本ラグビーの課題と捉える指導者は少なくない。エディー・ジョーンズHCも、2015年までの日本代表時代に厳しく指摘していたこの国の弱点が、社員選手がラグビーに向き合わなくてはいけない時に「社業」に逃げ場を作っていたことだった。プロかアマかという是非論ではなく、プロ化が加速する世界のラグビーの中で勝ち抜くためには、プロと同等かそれ以上の強化が、個々の選手の成長に必要なのは当たり前だ。
社員選手ばかりの時代に現役だった薫田GMだが、日本代表の主力として世界に挑み続け、指導者としても国際クラスの強化、コーチング、チーム運営を学ぶ中で、日本選手のラグビーに取り組む姿勢には足りないものがあることをしっかりと認識している。
選手がラグビーに取り組む姿勢を、以前ならコーチやスタッフが口やかましく“説教”していたのがトップリーグ時代までの日本の姿だった。だが、リーグワンという新しい時代を迎える中で、薫田GMはその「姿勢」やグラウンド内外での貢献度を数値化して、チーム運営、強化に取り込んでいる。
「まだ完璧なものじゃないですけど、2020年のシーズン後にGMに就いてから、選手評価については私が担ってきた。いまもシーズンが終わり、選手1人ひとりの成果を数値化しているところです。リーグワン公式戦は勿論ですけれど、練習試合の全てのスタッツも数値化、順位化して、出場回数、プレー時間、HCの毎試合の主観的な評価などもポイント化しています。後はグラウンド内外の事業貢献ですけれど、これも全てポイントに換算します。選手評価は当然どのチームもしていますが、ウチの場合は7月の賞与で反映させることになります。これは社員に対してのやり方ですが、プロ選手にも反映されます。数値化をすることで、選手のマインドを変える事って、すごく大事かなと考えています」
チームとしての活動の中で、選手の取り組みを全て数値化した、いわば“薫田エンマ帳”がGMのパソコンの中に蓄積されている。修正を加えながらも制度を導入して3シーズン。選手もこのようなシステムで自分たちが評価され、成果や課題をしっかりと認識する中で、ラグビー選手としての成長を積み上げてきた。このような“エンマ帳”で鍛えられ、昨季のチーム躍進の中で輝いたのが、先に挙げた入社4年目前後の若手たちだ。選手に求められること、評価を可視化することで、ラグビーに取り組む姿勢が明らかに変わったことが、今季の優勝の隠れた原動力なのかも知れない。