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日本国民が井上尚弥に夢を見た その陰で59年の人生初、重圧と闘った興行主・大橋会長の武者震い

公開練習でルイス・ネリ(手前右から2番目)を真剣な眼差しで見つめる大橋会長(一番左)【写真:荒川祐史】
公開練習でルイス・ネリ(手前右から2番目)を真剣な眼差しで見つめる大橋会長(一番左)【写真:荒川祐史】

大橋会長が武者震いできた理由「井上は私が緊張していると…」

 世界戦4試合を同じ興行に組み込むのは、これまでの3試合を超える日本ボクシング史上最多。しかも、全カードに大橋ジムの選手が登場する。「対戦相手も含め、8人も管理しないといけない」。興行1か月前、大橋会長は59年の人生で初めての感覚を味わった。

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「現役時代から試合前にイメージトレーニングで自分を落ち着かせるのですが、東京Dの経験がないから想像がつかない。世界戦4試合は今までにない緊張の風景。ボクシングを始めてから味わったことがありませんでした。大橋ジムでも通算60試合くらい世界戦をやっていますが、今までにない心境。リングから控室も凄く遠くなる。毎試合往復したら倒れちゃいますよ」

 不安と同時に「やりがいがありますね」と湧き上がるものがあった。武者震いできたのは、何より「日本ボクシング史上最高傑作」と称される心強い愛弟子の存在があったからだ。

「今まではプレッシャーを楽しんでいましたけど、それができない。今回は全てが初めて。でも、それを踏まえて井上尚弥はモンスターですね。私があまりに緊張していると選手に伝染してしまうので、普段は“ドン”としておくんですけど、井上は私が緊張していると逆に『やってやるぞ』となるそうです。モンスターは違いますね。

 ボクサーとしてジムをつくって最高の瞬間。選手に感謝したい。こんな場所に連れてきてもらったんですから」

 5月5日、全選手が無事に計量クリア。ネリもリングに上げた。「正直、ホッとしてます」。かつてはストレス過多で興行直前に痛風を発症したこともあれば、計量を終え「あとは地震だけ……」と祈った日もあった。

 そんな苦労を乗り越えて開催された歴史的興行。4万3000人がボクシングの素晴らしさを生で体感した。大橋会長が現役時代に所属したヨネクラジムの米倉健司会長は昨年4月に死去。「孫弟子の試合を天国から見守ってくれると思う」。しかも今年は大橋ジム創設30周年でもあった。

 独占生配信したAmazon プライム・ビデオでは日本史上最大のピーク視聴数を記録。大橋会長は「どっと疲れが出た。試合内容も影響している。緊張のあまり家で見ていようかと思った」と冗談まじりに息をついた。ただし、夢には続きがある。

「ボクシングは魅力があるということです。凄さを見せることができた。今後も東京Dで開催する可能性はあります。ここからが始まりですよ。次の世代に繋ぐ役目もあります。今回は井上尚弥じゃなきゃ難しかった。次のスターが出ないといけない。それは自分の役目でもあります」

 歴史的興行へ、日本国民は井上尚弥に夢を見た。その陰で舞台を整える人の存在を忘れてはならない。

(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)

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