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物流業界から参戦、ラグビー界の風雲児になるか 創部10年あまりの無名軍団が狙うリーグワン参入

単独インタビューで“丸和ビジョン”を語る細谷GM【写真:吉田宏】
単独インタビューで“丸和ビジョン”を語る細谷GM【写真:吉田宏】

細谷GMが膨らませるホームスタジアム構想

 細谷GMのラグビー界での業績を挙げるなら、NECグリーンロケッツ時代に遡る。当時の国内最強リーグ「トップリーグ」では、大半のチームが社内で置かれた位置は、旧来の企業スポーツ、つまり福利厚生の一環だった。そんなチームで、総務として選手のラグビーでの成果を業務評価に結び付けるように本社サイドに働きかけ、「アスリート手当」という名目で業績に反映させた草分け的な存在が細谷だった。この尽力により、国内ラグビー界に、いまなら当たり前の選手への報酬が広がることになった。

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 2002、04年シーズンには日本選手権を制覇したNECが、その後低迷期に入るなどグラウンド上での手腕への賛否の声があるのも事実だ。日野時代には、強化合宿での複数選手による飲食店でのトラブルも起きている。だが、低迷が続いていた明治大学ラグビー部の強化にもヘッドコーチとして携わり、下部リーグで苦闘していた日野をトップリーグに昇格させるなど、若いチーム、上のステージを目指すチームの実力を押し上げる段階で、コーチ、マネジメントスタッフとして手腕を発揮した実績を持つ。

 新天地の丸和に目を向けると、まだまだクラブレベルだったチームが、ようやく地域リーグから全国区を目指すという進化段階だ。細谷GM自身「いまのチームの現状でいうとリーグワンは程遠い」と断言する。

「(社内で)聞いてみると、リーグワンに上がるための理解やリソースも揃っていない状況でした。でも和佐見社長とお会いした時に、明確に(リーグワン)ディビジョン1に行きたい、そのためにどうしたらいいか協力して欲しいと言われたんです。私の経歴を見て、下から上へ上がっていくプロセスを知っている人間に頼みたいという思いが伝わったのでお受けしたんです」

 このチームが細谷GM自身の経験値、手腕が生かせる場所だという認識は強い。就任に伴い右腕として同じ明大OBの伊藤宏明にヘッドコーチ(HC)を任せ、プレーイングコーチとして元日本代表HO木津武士も現役復帰する。共に日野時代の仲間でもある。昨季まで6シーズン、明大BKコーチ、HCを務めた伊藤HCの力を借りながら、GMとしてチーム運営や会社側の理解を深め、どう協力を仰ぎ、予算を引き出すかというマネジメントのエリアに力を注ぐことになる。オーナー社長の号令で強化を進めてきた新興チームを、選手の雇用や環境整備など運営面で、より組織的にオーガナイズ出来るかという挑戦が始まっている。

 国内有数の強豪チームへ進化したNEC、学生屈指の名門・明治大、伝統はあるものの低迷から脱却しようとしていた日野と、様々な背景を持つチームに携わってきた細谷GMには、新天地でもう1つ野心的な願望がある。

「日野の時も中期計画を会社首脳に出していた。どうトップリーグに昇格して、上位に定着するかというロードマップです。5年間を、こういう計画で、この時期にはこういうレベルの選手を入れて、こんな運営をしていくというものだった。丸和でも同じようなチーム作りをしながら、日野で成し得なかった本拠地問題を現実にどう結び付けていくかがロードマップなのかなと思っています」

 新体制会見では明言はなかったが、ホームスタジアムの確保はリーグワン参入の大きな条件だ。そして、この新GMには、参入チームに原則的に求められる1万5000人以上の収容力を持つスタジアムを、自前で確保したいという強い思い入れがある。日野時代は、母体企業である日野自動車の本社工場(東京・日野市)移転に伴い、創業地の再開発計画が浮上していた。本社上層部は、自社開発の自動運転などのテクノロジーによる最新インフラを導入したスマートシティーの建設構想を打ち出していた。そこに監督だった細谷らが、コミュニティーのシンボルであり中枢としてラグビースタジアムの建設を提案していたのだ。

 選手の不祥事や本社の経営難などもあり、スタジアム構想は企画段階に止まったが、独自のスタジアムへの思いは新天地でも変わらない。和佐見社長はじめ丸和運輸首脳陣とは踏み込んだ話はしていないという。建設候補地も決まっていないのが現状だが、新GMが温めている夢は着実に膨らんでいる。

「NEC時代からホームスタジアムの構想は待っていた。リーグワンになって、スタジアムの保有はより現実的になっていますよね。しかし、和佐見社長がどう考えるのか、土地をどう確保するかと課題は山積です。ただ、丸和運輸機関という企業は物流の自動化などの最先端の事業にも取り組んでいる。企業としてのナレッジが、スタジアムにも生かせるんじゃないか。防災拠点として役立てるなど、地域に必要なスタジアムが作れるといい。ラグビーだけなら、1シーズンでたかだか10試合です。費用回収することはできない。でも、防災なども含めた多目的スタジアムは日本には少ない。そういうレガシーになるものであれば、スポーツ以外での拠点という役割も含めた収益性は担保できるんじゃないかと思います。全く異なるものになりますが、日野でのスタジアム構想からヒントもあると考えています」

 チーム強化と同時に、自費を投じてもチームを応援するオーナー、そして本社上層部からどこまで理解を得ることが出来るかというチャレンジになる。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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