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「僕は金メダルに届かない選手」悩み傷ついた18年間 それでも日本競泳界に入江陵介は不可欠だった

競泳五輪メダリストの入江陵介(34)が現役を引退した。16歳で日本代表入りしてから18年間、08年北京から21年の東京まで4大会連続五輪出場を果たし、3個のメダルを獲得した。競泳史上初の5大会連続出場を目指したパリ五輪選考会で代表を逃して迎えた引退。3日に都内で行われた会見は、笑いと涙に包まれた入江らしいものだった。(文=荻島 弘一)

現役時代の入江陵介【写真:Getty Images】
現役時代の入江陵介【写真:Getty Images】

高校時代から取材するスポーツライター・荻島弘一氏が回顧

 競泳五輪メダリストの入江陵介(34)が現役を引退した。16歳で日本代表入りしてから18年間、08年北京から21年の東京まで4大会連続五輪出場を果たし、3個のメダルを獲得した。競泳史上初の5大会連続出場を目指したパリ五輪選考会で代表を逃して迎えた引退。3日に都内で行われた会見は、笑いと涙に包まれた入江らしいものだった。(文=荻島 弘一)

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 初めて入江を取材したのは、08年北京五輪前だった。当時から水面を滑るように美しい泳ぎだったが、プールサイドの高校生から感じたのは「線の細さ」だった。体型だけではなく、精神的な部分での繊細さ。周囲を気遣いながら、言葉を選んで話す。ピアノが得意な芸術家肌。日本新記録を連発する「強さ」と対称的な「優しさ」「儚さ」を感じた。

 どちらかと言えば「オラオラ系」が目立つ競泳チームの中で、異質にみえた。当時、あるコーチは「泳ぎは素晴らしいけれど、精神面が心配。周囲の影響を受けやすいし、流される傾向がある」と話していた。後に金メダルを手にする鈴木大地や北島康介は五輪初出場の高校生の時から他を寄せ付けない「芯」を感じたが、入江にはそれが見えなかった。

 五輪と世界選手権で銀メダル4個。09年ローマ世界選手権200メートルは当時の世界記録を破るタイムを出しながらピアソル(米国)に敗れて2位だった。12年ロンドン五輪の同種目でも金のクラリー(米国)と0.37秒の銀。世界記録を更新するタイムで泳いでも、水着の規定違反で公認されないことまであった。結局、頂点に立つことは1度もなかった。

「僕は頑張っても金メダルには届かない選手」と思い悩んだこともある。自虐的な弱音を聞いたことも1度ではない。極度の緊張からレース後に嘔吐することも珍しくなかったという。会見でも「引退を考えたことは何度もあった」と明かした。それでも現役を続けられたのは、競技に対する真摯な思いと周囲への感謝があったからだと思う。

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荻島 弘一

1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者としてサッカーや水泳、柔道など五輪競技を担当。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰する。山下・斉藤時代の柔道から五輪新競技のブレイキンまで、昭和、平成、令和と長年に渡って幅広くスポーツの現場を取材した。

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