リーチ・マイケルが見た新生ラグビー日本代表 第2次エディージャパンで指揮官と再び奇跡に挑む旅
リーチが今回の再始動で気づいた指揮官の変化
では、実際にグラウンドの上でわずかながら見えてきた「超速ラグビー」はどのようなものだったのか。2日間、合計2回のセッションでは、ゲーム形式のメニューの中で、35秒だけプレーをさせて、その後20秒、30秒とコーチから指定された休止時間の中で、選手間でプレーの反省や、やるべきプレーを確認させ、体力を回復させて、再び35秒間プレーするメニューを導入。選手に、実戦に近い状態でスピードに拘ったプレーを何度も反復する意識を植え付けた。
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1日5部練習などハードトレーニングが特徴のエディーにしてはグラウンドでのセッションは比較的少なかったが、すでに1対1での面談も行うなど、指揮官自身が選手を理解するのと同時に、選手にも新生ジャパンの考え方、超速のコンセプトを伝えることにも時間を割いて、ミーティングで得た知識や考え方をグラウンドで確認、体感させた。
攻撃ラインを見ると、間隔の狭いポジションからショートパスを繋いで攻めるスタイルをベースにしていた。このスタイルは母国オーストラリアの伝統的な戦法でもあり、エディー自身も過去に指揮したチームで何度か採用してきた。本人は「それも一部なのだが、練習ではプレッシャーがかからない状態だ。難しいのは、ゲームの重圧がかかる中で実行できるかどうか。なので、違うスキルも必要になってくる」と今後の検討材料と語ったが、ボールを小刻みなパスでスピーディーに繋ぎ、動かしながら、相手防御を崩そうとする攻撃を模索していることが伺われる。
第1次と変わらないのは、先にも触れたゲーム形式のメニューだ。選手の中にエディーが混じるようにして、自ら両手に抱えるボールを様々な方向に放り投げ、蹴り込んで、アンストラクチャーな状況で攻守を入れ替えながらプレーさせる。このカオスな状況からアタックスタイルを再構築して、自分たちのゲームを作り上げていく流儀は9年前までと同じだ。
第1次エディージャパンで、指揮官と最も密接な時間を過ごしたリーチだが、今回の再始動では指揮官の変化にも気付いている。
「まだ1日だけなので比べるのは難しいですけれど、ミーティングのやり方がすごくおもしろくてレベルアップしていた。全員が円になって、いろいろ説明をして、質問もしながら進めていく。練習中にプレーを1回止めて、修正して、というのを繰り返していた。そういうところは新鮮でした」
多くの選手が指摘していたのが、リーチも語っているコミュニケーションの取り方だ。第1次は指揮官から選手に、徹底して戦術や求めるプレーを落とし込んでいた印象だった。取材する側は練習というよりも矯正という印を受けたが、今回の短期キャンプでは、正解を押し付けるのではなく、グラウンドでもミーティングでも選手自身に、選手同士で考えさせる場を与える機会が多かった。
第1次の当時を振り返ると、W杯まで1年という段階で、徹底した落とし込みから選手たちの自主性をさらに高めようとするコーチングへの変化があった。今回の選手に考えさせるアプローチは、当時から、イングランド、オーストラリア代表での指導経験の影響もあるのだろう。同時に、15年大会でようやくプール戦3勝を挙げたチームと、すでにベスト8進出も果たしたチームという進化段階の違いも、チームとの向き合い方に変化をもたらしたはずだ。選手のマインドセットも、プレーのレベルも変わっている。以前と同じやり方では選手も付いて来ない。そんな現実を、合宿終了後に指揮官自身がこう語っている。
「世代の変化があります。30年前を振り返ると、コーチングはどれだけ怖がらせるかで選手に規律を求めてきた。もちろんそれも大事だが、違う見せ方をしていく必要がある。なぜなら、いまの選手は私の世代とは違う形で育っているからです。どうやれば選手の力を最大限に引き出すことが出来るのかを探りながら、いろいろな形でアプローチしていくのです」
2015年までの合宿では、エディーが選手に対して「そんなプレーじゃ世界とは戦えない」「だから日本はW杯でまだ1勝しか出来ないんだ」と厳しく叱咤する毎日だったが、今回は怒声どころか、終始笑顔で選手を「今のはいいプレー」と励まし、自信を持たせるような“優しいエディー”に終始した。
その一方で、リーチは前回と変わらないエディーならではの資質も感じている。
「見るべきところはしっかりと見ています。(選手が)見ていないところも、エディーがピックアップして1回止めながら直していた」