「俺は詐欺師だ」 スポンサーを裏切った東京五輪敗戦、再起のアマボクサー岡澤セオンに吹いた逆風
金メダル獲得とともに掲げるもう一つの夢「僕一人がお金を稼げても意味がない」
厳しい環境に身を置き、練習により一層の熱が入った。自信を取り戻し、迎えた10月のアジア大会で決勝進出。パリ五輪の代表権を掴み取った。初戦でアジア王者、2戦目で世界選手権銅メダリスト、3戦目で金メダリストに勝利したのが自信の裏付けに。次の大目標はパリ五輪。「もう誰も裏切りたくないですね。あんな想いをしたくない」。定めるターゲットは一つしかない。
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「僕はここで引退してもいいぐらいの気持ちでいるので、とにかく金メダルを獲りに行く大会にしたいです。選手として頑張るのは、もしかしたらパリ五輪で終わりかもしれないけど、パリ五輪が終わっても、金メダルを持ってやりたいことがたくさんあるので。その中にはスポンサーさん、お世話になった人への恩返しも入っていますし、アマチュアボクシングへの恩返しもしたい。
堂々とスポンサーさんに『ありがとうございました。僕のことを応援して最高でしたよね?』と言えるぐらいの人間になって、何かを返して終わりたいです。恩返しの時間をつくれるように。そのために金メダルを絶対に獲らないといけない」
アマ初の「プロのアマボクサー」として道を切り拓いてきた。スポンサーに伝えてきた「僕も応援してほしいけど、アマチュアボクシングを応援すると思ってほしい」という考えは、現役を退いても持ち続けていく。夢の一つがプロ活動をするアマボクシングチームをつくることだ。
「(選手の)もう一つの受け皿になれば。そうすればそのチームで指導者、フィジカルトレーナーも生活していける。こういうチームが各地方にできて、将来はリーグ戦ができるようになったら面白い。何十年かかるかわからないし、できるかどうかもわからないですけどね。僕一人がある程度お金を稼げるようになって成功してもあまり意味がない。それを後輩に託したいです。
正直、自分が金メダルを獲るためだけには頑張れない。金メダルを獲って何かをしたいんです。アマチュアボクシングに僕にしか残せないものを残したい。僕には現役として時間がなさすぎるので、形をつくっていくこと。『何でもできるよ』って。その1つとして僕が1つ目のチームをつくりたいですね」
(18日の第3回「ガーナ人の父を持つ日本人 境遇に悩まないボクサー岡澤セオンの『何に目を向けるか』という生き方」に続く)
■岡澤セオン/Sewon Okazawa
1995年12月21日生まれ。山形・山形市出身。ガーナ人の父と日本人の母との間に生まれ、本名は岡澤セオンレッツクインシーメンサ。小、中学生時代はレスリングに打ち込み、日大山形高からアマチュアボクシングを始めた。3年時にライト級で全国高校総体5位入賞。中大1年時にライトウェルター級で国体3位、4年時に準優勝。就職先が内定していたが、鹿児島体育協会から国体に向けた強化指導員兼選手の誘いを受け、競技を続行。19年アジア選手権ウェルター級で日本人36年ぶり銀メダル。東京五輪ウェルター級(67キロ以下)2回戦敗退。21年世界選手権で日本人初の金メダル。24年パリ五輪は71キロ級代表内定。
〇…全日本選手権が21日から6日間、東京・墨田区総合体育館で行われる。24年パリ五輪の世界予選トーナメント日本代表最終選考会を兼ねた大会。岡澤は出場しないが、すでに同代表に内定した男子フェザー級・原田周大とともに中継のゲスト解説を務める。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)