李忠成・現役引退インタビュー第1回、引退後も切り拓く新たな道

　多くの人の記憶に残るゴールを決めた1人のサッカー選手が、今季限りで現役生活に別れを告げる。元日本代表FW李忠成は在日韓国人として生まれ、21歳の時に日本へ帰化。現在所属するアルビレックス新潟シンガポールに至るまでの20年間のプロ生活は、念願の北京五輪出場をはじめ、2011年アジアカップ決勝の伝説的なボレーシュート、負傷に泣いた欧州挑戦、人種差別問題など激動に満ちていた。スパイクを脱ぐことを決断した今、旧知のスポーツライターに自身のキャリアを振り返りながら本音を明かす。インタビュー第1回は現在所属するシンガポール行きを決めた背景や、引退後のビジョンについて語った。（取材・文＝加部 究）

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　李忠成は、シンガポールを現役生活の最終章にすることに決めた。

　美しいボレーシュートで日本代表をアジア王座に導き、サウサンプトンのプレミアリーグ昇格にも貢献したストライカーにしては意外な選択にも映るが、そこには在日韓国人として生を受け、新しい道を切り拓いてきた彼らしい理由があった。

「やりたいことをやってお金をもらえて、好きなところに住める。それを実現できるのがプロサッカー選手です。振り返れば、今までもどこに住んでプレーをしたいのかを重視して、クラブの選択をしてきました。だから（2021年に）京都（サンガF.C.）を出る時に、自分に問いかけてみたんです。まず大前提として英語圏に行きたかった。その上で経済的に豊かで、これから発展していきそうな国……。浮かんだのは、オーストラリア、米国、それにシンガポールでした」

　米豪については、エージェントや現地でのプレー経験者等に連絡を取り調査を進めた。一方でアルビレックス新潟シンガポールは、直接是永大輔会長に連絡を取り、そのまま速やかに年俸交渉が始まった。

「ワールドカップへのアジアからの出場枠も広がり、今後は東南アジアから初出場国も誕生してくる。サッカーも経済も盛り上がっていく中で、きっとハブになっていくのがシンガポールだと思ったんです」

　シンガポールリーグの規約は独特だ。日本から参戦しているアルビレックス新潟シンガポールの場合は、シンガポール人選手には制約がなく、日本人は1名のオーバーエイジ（OA）枠を除き全員が23歳以下で、うち4人は21歳以下でなければならない。つまり唯一のOA枠でプレーする37歳の李は、年齢も経験値もかけ離れた若いメンバーと共闘していくことになる。