「本当の意味で世界の仲間入り」 8位快挙の田中希実が葛藤、最後に笑えた8日間の世界陸上
「2度と忘れられない経験。成長するきっかけになった大会」
今大会は2種目4レース。8日間、心は激しく揺れていた。東京五輪で8位入賞した1500メートルは準決勝を組12着、全体23番手。ともに最下位(1人途中棄権)で敗退した。5000メートルに向け、気持ちを奮い立たせられない。
【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら
「虚しいという感情しか湧かない。もう終わった。5000メートルはもう走っても無駄なんじゃないか。参加するだけなんて意味がない」
また、葛藤が始まった。
「出るからには、この感情をなんとかしなければいけない。凄くもがいた。最低限走るために、自分の気持ちを奮い立たせるために、凄く葛藤した。それを自分の中で収めることはできなくて……」
父・健智コーチにもネガティブな言葉を投げかけた。「言っても喧嘩になるし、それを見た陸連のコーチにも凄く気を使わせた」。周りの雰囲気を悪くしてしまい「発端は自分。またそこで苦しんでしまって、自業自得のことを繰り返した」。父には突き放されるような厳しいことも言われた。「私が自分のことを諦めて、『チームが解散したらこの後どうしようか』ぐらい考えていた」
それでも、周りは寄り添ってくれた。日本の知人に相談し、ブダペストに帯同したマネージャーとも「なんでもない話」で笑い合う。「本当に他者の存在に救われた」。最後は父も手を差し伸べてくれた。そんなチームを見て思う。
「こんなにみんなが信じてくれてるのに、私自身がそこいないということは一番申し訳ないこと。自分が自分を信じられなかったとしても、他の人の気持ちを裏切るのは絶対ダメ。そこに気づくことができた。
最後は自分自身を許すことができた。『やらなければ』じゃなくて、『やりたい』という気持ちを取り戻すことができた。紆余曲折はあったけど、数日の中で自分自身を取り戻すことはできた。2度と忘れられない経験。本当に自分自身が成長するきっかけになった大会だと思う」