やり投げ金・北口榛花、孤独とも闘ったチェコ生活 17歳で描いた「世界一の夢」で乗り越えた
「世界一になれると信じていた。やり投げをやってよかった」
上がり続ける周囲の期待。目先の結果を求めた投てきならいつでもできる。でも、世界一の夢を追うなら進化が必要。「喧嘩もする」とコーチとの意見のぶつけ合いは日常茶飯事だ。感覚を取り戻し、7月に自身の日本記録を4年ぶりに塗り替える67メートル04をマーク。世界ランク1位に上り詰め、ブダペストに乗り込んだ。
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会場に入れば、国際映像のカメラは北口を追う。世界1位の宿命。「こういう状況は初めて。楽しもうと精一杯努力したけど、どこかで緊張があった」。あえて唇を震わせたり、思いっきり体に力を入れてみたり。いつものリラックス法に集中し、予選を突破した。
夜開催の決勝に向け、前日は昼寝。「寝ようとしたら胸がバクバク。心臓が出てきちゃうんじゃないか」。決勝直前の待機室でも、他の選手がいる中で自分にカメラがピタリ。最後は笑顔で手を振って見せたが、表情は硬かった。
しかし、スタジアムに入った瞬間にホームを感じた。コーチとその家族、チェコでのチームメート、日本から駆け付けた両親。「知っている顔が本当にたくさん見えて安心した」。劣勢に立たされても、コーチが言葉をくれる。「投げれる、投げれる」。背中から感じるエールをやりに込め、大逆転を決めた。
「つらいこともたくさんあったし、今は冷静に振り返られない。けど、本当に世界一になれると信じてこの競技を選んでよかった。やり投げをやってよかった」
過去最多76人の日本選手団で女子主将を任された25歳。早くも来年のパリ五輪代表に内定した。「さっき知りました(笑)。五輪は他の選手の気迫が違うと思う。自分も世界チャンピオンとしての気迫を出せるようにしたい。これからプレッシャーがかかるけど、負けないように」。昨年は銅メダルの重みを問われ、「軽い」と語った。金メダルはどうなのか。
「材質的に重いです(笑)。去年は木だったから」
大きな声で笑う新女王。ハツラツとした表情は、周りも明るくさせていた。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)