世界の身長に愕然とした1年前 110m障害5位・泉谷駿介が克服した「175cmの劣等感」
ブダペスト世界陸上は19日から連日熱戦が繰り広げられている。「ドナウの真珠」と呼ばれる美しい街並みを誇るブダペスト。現地で取材する「THE ANSWER」では、選手や競技の魅力を伝えるほか、新たな価値観を探る連載「陸上界の真珠たち」を届けていく。
ブダペスト世界陸上連載「陸上界の真珠たち」第7回
ブダペスト世界陸上は19日から連日熱戦が繰り広げられている。「ドナウの真珠」と呼ばれる美しい街並みを誇るブダペスト。現地で取材する「THE ANSWER」では、選手や競技の魅力を伝えるほか、新たな価値観を探る連載「陸上界の真珠たち」を届けていく。
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第7回は、21日(日本時間22日)の男子110メートル障害で日本人初の決勝進出を果たした23歳の泉谷駿介(住友電工)。準決勝は堂々の組1着で世界の8人に生き残り、13秒19秒(無風)で5位入賞した。昨年大会は海外選手との身長差に愕然。日本記録保持者としての自信を失ったが、技術で克服して世界と互角に渡り合った。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
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空気が違う。「みんなピリピリしていて、気合いが入っていた」。これが世界一を争う戦場だ。泉谷は自分の立つ6レーン以外の視界を遮断する。静寂のスタジアム。号砲が鳴った。
だが、いきなりアクシデントに襲われた。スタートブロックを蹴った瞬間、両ふくらはぎが痙攣。しかも、腰に付いていたナンバーの布も剥がれ、左手にまとわりついた。「焦りまくった」。使う筋肉を脚から腹部中心に切り替え。「もうこれ以上つらないように」。懸命にメダル経験者たちを追い、フィニッシュラインに身を投げ出した。
13秒19の5位。メダルまで0.1秒。自身の日本記録13秒04なら銀メダル。
「もう周りのことなんか気にしてなかった。もう記憶がないです。散々だったけど、その中で気合いで走りました」
息を切らしながら、飄々と振り返ったファイナル。「脚がつって体の使う部分を切り替えた」と、常人には理解しがたい対応力もさらりと言ってのけた。
「とても楽しいレースでした。緊張感はなくいつも通りだったので、メンタルがついたのかなと。決勝の舞台に立ててまずは第一目標達成。5位という結果は少し悔しいけど、良い経験になった。まあ、来年に繋げられればいいなと思ってます」
1年前のオレゴン世界陸上。日本記録保持者の自信は打ち砕かれた。組5着で準決勝敗退。「勝てる気がしない」。身長190センチの選手がざらにいる場所。175センチの自身より明らかに腰の位置が高く、レース前のウォーミングアップから圧倒させられた。「自分は小さいのでどうしようもない。種目を変えるのもあり」。苦笑いに喪失感を滲ませ、打ちひしがれた。
「何をすればいいのか。しっかり冬季練習を積んでもここまで圧倒的な差を見せられるので」