井上尚弥、強すぎるがゆえの悲哀 大橋会長の苦悩「今は勝てそうな王者を選べる」
4団体時代の弊害?「今は勝てそうな王者を選ぶことができる」
──対戦を恐れられるという意味では、試合を重ねるにつれてさらに試合を組むのが難しくなっていったと思います。いままでマッチメークで一番苦労した試合はどの試合でしたか?
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「全部苦労しましたけど、強いてあげれば昨年(17年)12月、WBO世界スーパーフライ級王座の最後の防衛戦ですね。あのときは最初、ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)というIBFチャンピオンと話がまとまりかけていたんです。アンカハスとはそれ以前にも交渉をしていて、あのときはもう契約書にサインして送っていた。すごくいい条件です。そもそも条件がよくなければ、だれも高いリスクを負って尚弥のような強い選手と試合をしようとは考えないんです。でも結局年内の試合は流れて、アンカハス陣営は『2018年に必ずやりましょう』と回答してきました」
──他団体チャンピオンとの統一戦は、井上選手も大いに興味を示していました。
「そうなんです。でも断られてしまったので、その次に元WBAスーパーフライ級王者のルイス・コンセプシオン(パナマ)と交渉を進め、これがまとまりました。ところが今度はWBOからストップがかかってしまった」
──それでいよいよ手詰まりになってしまった?
「とにかくいくらいい条件を出してもだれもやってくれない。たとえばランキング1位の香港の選手は、こちらが『香港で試合をしてもいい』と言ってもダメでした」
──強いチャンピオンに挑戦するリスクは分かりますが、そのような姿勢ではいつまでたっても世界チャンピオンになれないのではないでしょうか?
「それが、そうでもないんです。いま、世界ではメジャーと言われている団体がWBA、WBC、IBF、WBOの4つあります。挑戦者は4人のチャンピオンの中からより勝てそうな選手、あるいは好条件を提示してくれるチャンピオンを選ぶことができるという状況です。強いチャンピオンがいる場合は、王座を返上するまで待つ、という選択肢もあるでしょう。いずれにしても、もし2団体しかなければ、あまり断らないんじゃないかと思いますね。それだけチャンスが少ないわけですから。4団体時代というのは大きいと思います」
(渋谷 淳 / Jun Shibuya)