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繊細な技の髄を競う「技能五輪」 真剣勝負の中で技術を磨く次世代のテクノロジスト【#青春のアザーカット】

学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。青春時代はあっという間に過ぎてしまうのに、今でもコロナ禍の影響がそこかしこにくすぶっている。

向こうが透けて見えるほど極薄のカンナ屑を削り出す小堺くん【撮影:南しずか】
向こうが透けて見えるほど極薄のカンナ屑を削り出す小堺くん【撮影:南しずか】

連載「#青春のアザーカット」カメラマン・南しずかが写真で切り取る学生たちの日常

 学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。青春時代はあっという間に過ぎてしまうのに、今でもコロナ禍の影響がそこかしこにくすぶっている。

 便利だけどなぜか実感の沸かないオンライン。マスクを外したら誰だか分からない新しい友人たち。楽しいけれど、どこかモヤモヤする気持ちを忘れられるのは、スポーツや音楽・芸術・勉強など、自分の好きなことに熱中する時間だったりする。

「今」に一生懸命取り組む学生たちの姿を、スポーツ・芸術など幅広い分野で活躍するプロカメラマン・南しずかが切り取る連載「#青春(アオハル)のアザーカット」。何よりも大切なものは、地道に練習や準備を重ねた、いつもと変わらない毎日。何気ない日常の1頁(ページ)をフィルムに焼き付けます。(取材・文=THE ANSWER編集部・佐藤 直子)

20頁目 ものつくり大学建設学科3年生・小堺奨栄くん、桐山実久さん

2022年の技能五輪「建築大工」銅賞の小堺くん(左)と「家具」敢闘賞の桐山さん(右)【撮影:南しずか】
2022年の技能五輪「建築大工」銅賞の小堺くん(左)と「家具」敢闘賞の桐山さん(右)【撮影:南しずか】

 日本で毎年のように開催される「五輪」がある。1963年からスタートし、2022年で第60回を迎えた歴史ある競技会。参加者が鎬を削るのは「電気溶接」「タイル張り」「造園」「美容」「レストランサービス」など、実に42競技に上る。そう、この「五輪」とはスポーツのそれではなく、専門的な技能・技術を競う「技能五輪全国大会」(以下、技能五輪)だ。

 23歳以下の若手技能者を対象に行われる技能五輪には、高校生から現場で経験を積み始めた社会人まで1000人超が参加。参加者は競技ごとに与えられた課題を制限時間内に完成させ、その出来映えを審査員が評価し、金賞・銀賞・銅賞・敢闘賞を決める。より手際よく、より正確に作業を進めるために欠かせないのが、日々の練習と実践。技能五輪で頂点に立つことを目指しながら試行錯誤を繰り返し、技能の精度を高めるプロセスは、金メダルを目指すアスリートと変わらない。

 2022年に「建築大工」部門で銅賞となった小堺くんは、結果について問われると「だいぶ悔しいですね」と苦笑いした。ものつくり大学に入学し、3度目の挑戦で初入賞。周囲からは「すごいね」「良かったね」と言われるが、「金を目指していたんですけど、銅で終わってしまいました」と振り返る。

 金賞を獲れるという自信と手応えを持って臨んだ大会。事前に発表される競技課題に沿って、大会会場では現寸図を書き、部材の木削り、墨付け、加工仕上げ、組み立ての作業を2日間、12時間で仕上げる。「金を狙える力は持っていると思っていたけど、本番でちょっとミスをして……」と説明を続けた。

 わずかなミスをしたのは、墨付けの時だった。大工作業では「上端の面が水平になっていないと、色々なところにズレが生じてくる」ため、小堺くんはいつも組み立てる時に上となる面を「0」として木材の寸法を採っていたが、数ある部材のうち1本だけ下面から採寸。最後に1ミリにも満たない段差が生まれた。「それだけでも仕上がりが全然変わってしまう。たった1つのミスだけど、あれがなければ金もいけたかな」。技能五輪への出場は「これが最後」と決めていただけに悔しさは残る。

高校時代はこっそり練習をして「下手くそ」を克服

「下手くそだった」のこぎり挽きも猛練習で自在に操れるようになった【撮影:南しずか】
「下手くそだった」のこぎり挽きも猛練習で自在に操れるようになった【撮影:南しずか】

 ものづくりに興味を引かれ、工業高校に進み、建築研究部に入った。そこで知ったのが、技能を競う競技大会の存在だ。「面白そうだな」と参加を決めたものの、大工作業はまったくの素人。のこぎりを挽くのも、カンナで削るのも、最初は全然上手くいかなかった。同級生2人と一緒に大会出場を目指したが、「2人より自分は全然下手くそ。だから、練習日ではない日に隠れてこっそり練習しました。あまり努力している姿を見られるのは好きじゃないんで」笑う。
 
 人目を忍ぶ猛練習が功を奏し、見る見るうちに腕を上げた。「なんかセンスあるとか、天才って思われていたみたいです。でも、努力をしての秀才でした(笑)」とサラリと言うが、そこに嫌みな響きがないのは、今なお努力を続けているからだろう。

 1ミリにも満たない誤差が完成した時には大きなズレにも繋がる繊細な大工競技において、「図面(現寸図)で勝負が決まると言っても過言ではないと思います」と小堺くん。「自分の描いた図面が信用できないと全てが変わってしまう。だからこそ図面は必ず毎日1枚は描くようにしています。どんなに上手い人でも1枚目で完璧には描けないので、何枚も描いて。数をこなして慣れると、やっと正確な図面が描ける感じですね」。日々の小さな積み重ねが成長に繋がる実感がある。

技術の精度を高めるため試行錯誤の繰り返し「やっぱり面白い」

数あるカンナの中でもお気に入りは「親分」だという【撮影:南しずか】
数あるカンナの中でもお気に入りは「親分」だという【撮影:南しずか】

 知識と技能・技術を持つ「テクノロジスト」の育成を目指すものつくり大学では、まず経験し、そこで見つけた疑問や問題の解決方法を考え、実践するプロセスを大事にしているという。「自分でこうかなって思ったことを試してみて、成功したら面白いなと思うし、失敗したら別の方法を考えて、もう1回やってみる。それで成功したら、やっぱり面白いと思うし、その連続ですね。昨日きれいにできなかったところが、今日きれいに仕上がるとか嬉しいです」。時には非常勤講師として熟練の大工がやってきて“生きたアドバイス”をくれることもある。

 最初は全く歯が立たなかったカンナ作業。今ではシュルシュルッという軽やかな音を立て、向こうが透けて見えるほど薄いカンナ屑を削り出す技術を身に付けた。様々な道具を使う作業は手際よく無駄がない。そして何より、一つ一つにこだわりと思い入れがある道具に囲まれながら、木材と向かい合う姿は幸福感に包まれている。

 最終学年を迎える2023年は技能五輪から卒業するが、「授業や卒業研究を通して、競技大会では得られないものを学びたい」という。卒業後は、段取りから仕上げまで「何でもできる大工になりたいと思います。自分の技術に満足せず、どんどん突き詰めていけるような工務店で働きたいです」と、職人の道を歩み続ける。

時間内に完成できなかった前年の悔しさをバネに敢闘賞

全ての部材が隙間なくピッタリはまる時に喜びを感じるという桐山さん【撮影:南しずか】
全ての部材が隙間なくピッタリはまる時に喜びを感じるという桐山さん【撮影:南しずか】

 小堺くんと同級生でもある桐山さんは、2022年に「家具」部門で敢闘賞に選ばれた。これが2回目の出場で、前年は制限時間内に課題作品を完成できない悔しさを味わった。「あと少しだったんですけど、間に合わなくて。だから、今回は何が何でも完成させる。それは最低限の目標みたいな感じでやっていました」と振り返る。

 競技課題は、机や椅子のような脚部、タンスや本棚の本体のような箱部、その他にも蓋部や引き出し部で構成された木製家具を、事前に発表された仕様と図面に沿って2日間・11時間で仕上げるというもの。集中力を高めて臨んだ大会当日。まさかのミスを犯してしまった。

「引き出しを作っている時にミスをしてしまって。材料交換して作り直すか、交換せずにそのまま作り続けるか迷いました。どちらにしても減点はされてしまう。あとは時間内で作り上げられるかどうか。私としては時間内はもちろん、完璧に仕上げたかったので材料交換することにしました」

 作業を進める過程で何が最良の選択肢なのか。その判断力もまた、大切な要素となる。材料交換し、作り直すと決めた桐山さんは、1時間程度を見込んでいた引き出し製作に全集中で取り組み、なんと30分で作り上げた。「時間がない中、めっちゃ猛スピードで作業したら、その様子を見ていた先生に『怖いくらいだった。でも、あれが本当の自分の姿なんだろうね』って言われちゃいました」と茶目っ気たっぷりに笑った。

 時間内に課題作品を完璧に仕上げた結果が敢闘賞。「材料交換したのが良かったんだと思います」と頷くが同時に、「賞を獲れたのはうれしいけれど、まだまだだなと思いました」とも話す。競技時間が終わり、並べられたそれぞれの作品を眺めた時のことだ。「遠くから見ただけですけど、隙間がまったくないし、段差もない。『あ、この人上手』って分かりました」。目を惹かれた作品は金賞に輝いた。

大工から家具へ転向「技術の精度が求められるので大工でも生きる」

木材にのみと玄能(げんのう)で穴を作る作業も繊細な技術が求められる【撮影:南しずか】
木材にのみと玄能(げんのう)で穴を作る作業も繊細な技術が求められる【撮影:南しずか】

 愛媛で自然に囲まれながら育った桐山さんは、子どもの頃から木と親しみ、ものづくりが大好きだった。母の勧めもあり、工業高校に進学。「最初は設計者になろうと思ったんですけど、やっぱり作る方が楽しくて。高校の時は大工でコンテストに出場していました」と話す。大工から家具に転向したのは大学に入ってから。家具サークルの活動に興味を持ち、本格的に家具の道に進むことにした。

「大工を続けるつもりで入学したんですけど、家具もやってみたいなとは思っていました。高校の先生にも『君は小さいものを作る方が合うと思う』と言われたこともあって、実際に始めてみると自分でも合っていると思います。それに家具の方が細かい作業が多くて、技術の精度が求められるので、大工に戻るとしても生きるかなと。違う視点も持てるようになるので、いいと思うんですよね」

 大工の名残がここかしこに現れる。愛用するのこぎりは家具用ではなく大工用。「大工のようにノコ一発で決まった方が作業の時短にもなるので」。大工と家具のいいとこどり、ハイブリット方式が桐山流でもある。

個性を生かせる家具作り、木目を生かしてデザインする突板に熱中

大工用ののこぎりで真っ直ぐ正確な切り目を入れる【撮影:南しずか】
大工用ののこぎりで真っ直ぐ正確な切り目を入れる【撮影:南しずか】

 大工作業と家具作り。どちらにもそれぞれ楽しさがある。

「大工は大きなものをみんなで作るのでチームスポーツみたいな楽しさがある。2つの部品を組み合わせる継手で片方を私、もう片方を友達が作る時、上手く組み合わさるかどうかは作ってみないと分からない。それが大工の楽しさ。家具は1人で全部作業するので、どれだけ上手くきれいに作れるか。家具の図面は仕様が指定されていない部分もあって、どれが正解とは決まっていない。そこは自分の個性が出る部分で、木目の生かし方とか自分で考える楽しみがあります」

 今、力を入れているのが突板(つきいた)という作業。薄く切った天然木材を貼り合わせながら、木目模様でデザインをする。「板を組み合わせる作業が本当に難しくて、きれいにピッチリはまった時はうれしいです」と話す。

 卒業制作に取りかかる2023年。技能五輪に参加するかどうか、まだ決めていない。「後輩を育てたい気持ちもあるし、自分で金賞を獲りたかったのもあるし……(笑)」。悩む心の中でも決まっていることが一つある。この先も「ものづくり」を続けるということだ。

「大学の卒業生で山口智大(ともひろ)さんという、技能五輪で2連覇して世界大会にも出場した方がいるんです。今、北海道で自分でデザインした家具を作っていらっしゃるんですけど、そういうのいいな、やってみたいなって思います」

 憧れの先輩のように、人に愛される作品を生み出せるよう、木のぬくもりと向き合っていく。

【出演者募集】
プロカメラマンの南しずかさんが、あなたの部活やクラブ活動に打ち込む姿を撮りにいきます。運動系でも文化系でも、また学校の部活でも学校外での活動でもかまいません。何かに熱中している高校生・大学生で、普段の活動の一コマを作品として残したいという方(個人または3人までのグループ)を募集します。自薦他薦は問いません。
下記より応募フォームにアクセスし、注意事項をご確認の上、ご応募ください。
皆様のご応募をお待ちしております。

■南しずか / Shizuka Minami

1979年、東京生まれ。2008年12月から米女子ゴルフツアーの取材をはじめ、大リーグなど主にプロスポーツイベントを撮影する。主なクライアントは、共同通信社、Sports Graphic Number、週刊ゴルフダイジェストなど。公式サイト:https://www.minamishizuka.com

■南カメラマンがファンダー越しに見た“技”の世界

撮影協力:Pictures Studio赤坂

(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)

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