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「この戦い方に未来はない」 高校サッカーとロングスロー、過度な勝利至上主義に警鐘

敵陣深い位置で得たスローインの場面で、助走を長く取った選手が力一杯ボールを相手ゴール前へ投げ込む――。“ロングスロー”はサッカーにおけるセットプレーの1つの形として、先日行われたカタール・ワールドカップ(W杯)や各国プロリーグの試合でも見られる光景だが、その頻度は1点を争うゲーム終盤など限定的だ。一方、日本の高校サッカーでは近年、ゴールを奪う確率を高めるための手段としてロングスローがブームになっている。育成年代で多用することの弊害はどこにあるのか。前編では日本の高校サッカーに蔓延する過度な勝利至上主義について、識者が警鐘を鳴らす。(取材・文=加部 究)

近年の高校サッカーではロングスローを導入するチームが増えている(写真はイメージ)【写真:中戸川知世】
近年の高校サッカーではロングスローを導入するチームが増えている(写真はイメージ)【写真:中戸川知世】

高校サッカーと「ロングスロー問題」前編

 敵陣深い位置で得たスローインの場面で、助走を長く取った選手が力一杯ボールを相手ゴール前へ投げ込む――。“ロングスロー”はサッカーにおけるセットプレーの1つの形として、先日行われたカタール・ワールドカップ(W杯)や各国プロリーグの試合でも見られる光景だが、その頻度は1点を争うゲーム終盤など限定的だ。一方、日本の高校サッカーでは近年、ゴールを奪う確率を高めるための手段としてロングスローがブームになっている。育成年代で多用することの弊害はどこにあるのか。前編では日本の高校サッカーに蔓延する過度な勝利至上主義について、識者が警鐘を鳴らす。(取材・文=加部 究)

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 欧州シーズンを中断して行われたW杯が閉幕し、入れ替わるように日本では年末から全国高校サッカー選手権が始まる。1976年度から戦いの舞台を首都圏に転じて以来大会は正月の風物詩として定着し、依然としてアマチュアのイベントでは圧倒的な注目を集めている。

 だが世界の頂点を決めるW杯と、高校選手権ではまったく異質のサッカーが行われている。それはレベルの違いではない。ここ数年間は、国際常識に照らせば育成年代ではありえないブームが支配している。

 無名の選手たちを集めた創設3年目で全国高校選手権の兵庫県予選で決勝まで進み、1期生の中から2人のプロ選手を輩出した相生学院高校の上船利徳総監督が語る。

「地区大会からロングスローを使わないチームを探すのが難しい状況です。しかもロングスローが結果を左右してしまっている試合も少なくない。しかしロングスローが効果的なのは、ディフェンスが未熟な高校の大会だからです。ワールドカップでもロングスローを取り入れているチームはありましたが、そこからビッグチャンスに繋がるケースはありませんでした」

 JFA(日本サッカー協会)は、負ければ終わる選手権に象徴されるノックアウト方式とは対極を成すリーグ戦の文化を導入しようと努めてきた。実際にプレミアリーグを筆頭に全国各地にはリーグ戦が整備され、大量の部員を抱える高体連もカテゴリーの異なる複数のリーグに参戦できるようになった。だがやはり高校生にとっては選手権が3年間の総決算であり、多くの選手たちにとってはW杯に等しい。そこで指導者も、選手個々の将来を見据えるより、目先の勝利を求めリスクを避けた短絡的な手段に走っている。

「ボールがタッチラインを割るたびにロングスローを使うようなチームは、大抵がロングキックとハイプレスをセットで使っています。長いボールを(相手の)ディフェンスラインの裏を目掛けて放り込む。つまり蹴って走ってセカンドボールを拾う。そんな偶然性の高い攻撃でも、相手の守備力が発展途上の高校生だとミスが起こり得点が生まれる。でもしっかりと浮き球の対応や処理ができる成熟したプロの世界などでは滅多にチャンスに繋がらないわけで、この戦い方に未来があるとは思えません」

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加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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