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私は矛盾した芸当を試みた 挑戦をやめず、涙した田中希実が書き記す「世界陸上の全貌」【田中希実の考えごと】

オレゴン世界陸上女子1500メートルの準決勝を走る田中【写真:Getty Images】
オレゴン世界陸上女子1500メートルの準決勝を走る田中【写真:Getty Images】

父に提案された800m棄権「3種目挑戦までぶれるようなことはしたくない」

 でも、他の種目が残っているからか、そこまで落胆しなかった。ただ、心にぽっかり穴が空いたようで、おもちゃを取り上げられた子どものような気分だった。決勝がないことでレースのない3日間が手持ち無沙汰になったことが余計虚しい。

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 読書をしてのんびりしたり、父とゆったりジョグしたり、マラソンの応援に行ったり、応援に来てくれた従姉妹とシンプソンズの壁画を見に行ったり、トランポリンで遊んだり。準決落ちしたとは思えないほど自分にとっては有意義な日々を送り、5000mでまた何か変わるかもしれないと、気持ちは膨らんできた。

 今年は1500mより5000mの方が、嬉しい誤算を演じてくれるのかもしれない……。

 6日目の5000m予選は、1500m以上に確かな手応えも持っていた。世界陸上前に走ったホクレンディスタンスチャレンジの3000mでは、後半の1500mを4分10秒くらいで上がれたのだから。今年は1500m単体でも4分10秒が苦しいのに、それで上がれるということは、スタミナ系の走り方のほうが今は合っているのかもしれない。

 この時も組は後の方だったので、15分以内で走ればいけると確認できた。しかし走り出すと、ちょうど15分のペースだというのに、思った以上に疲弊するのが早かった。しかも、自分の前には10人近くいる。もし、15分以内で走っても、10人が全員それで走ったらタイムで拾われることさえない。去年のオリンピックのワンツーが2人ともいるようなハイレベルな組に、ちっぽけな手応えは簡単に打ち砕かれた。

 5000m予選を通った後、本格的に虚しくなり始めた。とてもじゃないが決勝は勝負にならないと、心のどこかで思いはじめたのだろう。結局ギリギリのところで拾われたが、逆にもし1組だったら予選落ちだったかもしれない。

 強い日差しの下を走ったので、ゴール後の取材を乗り切ると吐き気のため動けなくなったりもした。自分の流れは完全に逸れて行ってしまった感があった。800mは棄権しないかと父に提案されたが、逸れてしまった流れを元に戻せないなら、3種目挑戦までぶれるようなことはしたくない。

 多分、この時点から5000mの結果は諦めていたのだろうが、そんな考えを直視せず、不安を押し込めて足を出すしかなかった。

(第2回「涙した世界陸上の全貌・後編」は18日掲載)

【田中希実のオレゴン世界陸上】
7月15日(初日):1500m予選(2組7着)
16日(第2日):1500m準決勝(2組6着)
17日(第3日):レースなし
18日(第4日):レースなし
19日(第5日):レースなし
20日(第6日):5000m予選(2組9着)
21日(第7日):800m予選(6組7着)
22日(第8日):レースなし
23日(第9日):5000m決勝(12位)
24日(第10日):レースなし

(田中希実 / Nozomi Tanaka)

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田中 希実

 1999年9月4日、兵庫・小野市生まれ。ランニングイベントの企画・運営をする父、市民ランナーの母に影響を受け、幼い頃から走ることが身近にある環境で育った。中学から本格的に陸上を始め、兵庫・西脇工高に進学。同志社大を経て、豊田自動織機へ。2023年4月からNew Balance所属となり、プロ転向した。東京五輪は1500メートルで日本人初の8位入賞するなど、複数種目で日本記録を保持する。趣味は読書。好きな本のジャンルは児童文学。とりわけ現実世界に不思議が入り混じった「エブリデイ・マジック」が大好物。公式インスタグラムは「@nozomi_tanaka_official

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