井上尚弥が4団体王座統一

　ボクシングのWBAスーパー＆IBF＆WBC世界バンタム級王者・井上尚弥（大橋）が13日、東京・有明アリーナでWBO世界同級王者ポール・バトラー（英国）に11回1分9秒KO勝ちし、アジア人初の4団体王座統一に成功する快挙を達成した。スピード、技術に優れる難敵撃破のイメージを作り上げたのは日々のスパーリング。練習相手を務めた後輩には、「お洒落な激励」を送っていた。（文＝THE ANSWER編集部・浜田 洋平）

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　10月24日の夜。試合を翌日に控えた大橋ジムの桑原拓は、おもむろに開いたスマホ画面に自分の名前を見つけた。読んでいたのは、2学年先輩の井上の記事。そこにはこう書かれていた。

「東洋太平洋フライ級王者になった桑原に練習パートナーの熱烈オファーをしたいです」

　昨年7月、桑原は日本同級王座挑戦に失敗。「ここで負けたら終わり、後がない」と重圧を抱えていた。2度目のタイトル挑戦前日に届いた、尊敬するスーパースターからのエール。スピードや技術を買われ、バトラーに身長とスタイルが似ていることから指名を受けた。

　直接的な言葉はプレッシャーになりかねない。集中したい試合前に、余計なことを考えさせてしまう可能性もある。井上はリング外でも“絶妙な距離感”で後輩の背中を押していた。

　勇気づけられた桑原は王者ジーメル・マグラモ（フィリピン）にスピードと手数で上回り、3-0の判定勝ちを収めた。ベルトを巻いたリングインタビューの声が弾む。「この後、井上尚弥選手にスパーリングパートナーにご指名いただいているので、バトラー戦での4団体統一の力になれればと思います」。応援に駆け付けた客席の井上に向かって頭を下げた。

「昨日の夜、記事で見て嬉しかったです。凄くお洒落な激励だなって。刺激になりましたね。ちょっと休ませていただいてから、スパーをできればと思います」

　これまで何度も手合わせした間柄。今回は「王者・桑原」と激励通りのスパーが実現し、井上は世界レベルの凄みを見せつけた。練習に向かう姿勢、考え方を伝えるのも惜しまない。後輩の成長を後押ししながら極めたバトラー対策。最強王者の粋な姿だった。