体操・杉原愛子が膝に入れた3度のメス 次世代に伝えたい、怪我で「強くなれる」思考
後輩たちへ伝えたい想い「焦ってやっても意味がない」
「例えば、足を怪我したとしても、上半身は使えるので、上半身の弱点を強化できるいい時期、強くなれる期間だと思って、リハビリに取り組めばいいんです。なので、リハビリはそういう期間だと考えて取り組んでいました」
それでも、ライバルの活躍を見聞きしたり、大会出場への意欲から焦りが生まれるものだ。焦りは禁物だと頭では理解していても、その焦りを抑えるのは簡単ではない。
「焦って早く復帰したところで、また同じ怪我をしたり、リハビリ期間が長くなったりするだけだとトレーナーから言われたからこそ、『焦ったらアカン』と思っていました。だから自分の弱い部分を、逆に時間をかけて取り組むようにやっていきました。焦ってやってもいい結果は出ないと思うので、焦る気持ちをいかに抑えられるか。難しいけど、その焦りを落ち着かせないと復帰できないと思ってやっていました。焦ったところで意味がない。言い方は悪いですけど、『焦ってやっても結局は怪我をする』と自分に思い込ませたうえで、『このトレーニングをやったら絶対に復帰できる』とリハビリに取り組んでいました」
さらに杉原さんにはもう一つ、成功体験がある。「病院の先生から復帰までに半年かかると言われていた怪我が、地道なトレーニングを続けていたら、3、4か月で復帰することができた」という。リハビリ期間中の変化は目には見えないが、時間が経てば変化は必ず出てくる。「そういう経験もあったからこそ、焦らずにいこうと思うことができた」と語る。
競技生活に「一区切り」をつけた杉原さんは、先輩競技者として、後輩たちにこんなアドバイスを送る。
「年齢が低いほど感情のコントロールが難しい。やりたい気持ちだけでやるんじゃなくて、怪我につながるということをきちんと教えたい」
そしてリハビリ中には、「このトレーニングを頑張ったら、復帰した時により強くなっているよ、ということも伝えたい」。
体操に限らず、どんなスポーツでも怪我はつきものだ。だからこそ、怪我とどう向き合うのかが大事になる。不運にも負傷してしまった時もすべてを悲観するのではなく、怪我に寄り添い、自身の状態を安定させることに注力したほうが、回復後にきっと大きく飛躍できる。第一線で活躍してきたアスリートたちの背中が、そのことを教えてくれている。
(THE ANSWER編集部・出口 夏奈子)