「死に場所」を探すボクサー人生最終章 32歳、元世界王者・岩佐亮佑が引退できない訳
試合直前の控室、チームに伝えた「もう長くない」
1つ重いフェザー級(57.1キロ以下)に転向した再起の道。しかし、セルバニアは減量できないこと悟り、59キロ、62キロと2度も契約体重を上げるように要求してきた。「何だよ。遊びじゃねぇんだよ」。苦しみを乗り越えたからこそ、リングで湧き上がる闘争心。戦うために最も大切なものを削がれた。
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結局、相手は62.6キロと体重を守れず。岩佐はフェザー級での世界挑戦へ、リングで試したかった技術、知りたかった感覚は多々あった。5キロも重ければ状況は大きく変わる。それでも、また気持ちをつくり直した。
「やってきた事実は変わらない。応援してくれる人のためにも、全身全霊で集中して切り替えた。良い姿を見せるために頑張ろうって。試合にあたっていろんな方に動いてもらって、お金も動いている。その責任もある。1年半も試合をしていなくて、これで試合が飛んだらまた体を作り直して、交渉もしないといけない。それが嫌だった。だから、試合を成立させてほしかった」
試合直前の控室、チームに伝えた。
「もう長くない。今回で引退だと思いながらやってきた。一戦、一戦が全て。厳しい、つらいところに自分から戻ってきたんだから、やるしかねぇだろ」
理想とは違う形の再起戦だったが、盤石な試合運びで勝利を収めた。通常ならあり得ない体重でリングに上がった危険性も承知している。「スポーツのルールに則るのは大前提。ただ、それ以上に僕が生き急いでいる」。12月で33歳。時間がない。決して試合の強行開催が肯定されるべきではないが、自ら志願してリングに上がった。
ボクサーとしてどうすれば「納得」できるのか。渋みの増したあご髭をさすりながら言う。
「やっぱり自分の中で『もう無理だな』『どんなに頑張っても実力的にもう勝てねぇな』って感じたら、辞めれるんだろうなと思います。でも、あの試合(アフマダリエフ戦)は確かに相手が強かったですよ。あの場で間違いなく強かった。逆にあのままやっていて、しっかり負けていたら引退していたんだろうなって。それくらい強かった。でも、何か煮え切らないというか……」
少し言葉を詰まらせた後、視線を上げて続けた。
「僕のわがままです」
後悔したままリングを降りられない。死に場所を探すボクサー人生の最終章。終戦のゴングは自らの拳で打ち鳴らす。
〇…25日の試合後、岩佐はインスタグラムを更新。ファンに向けて以下の想いをつづった。
「応援ありがとうございました! 文句無しのKO勝ちで勝てたと思います。体重の件色々ありましたが、僕が完璧に勝てたので丸く収めてください。実際逃げ出さずリングに上がったセルバニアにも感謝してます。この試合やるべきだったのか疑問かと思いますが、まず僕が何とか試合を成立させてくれと言いました!
実際僕には時間が無いので、なんとでも試合はやりたかったんです。色々動いてくれた方本当に感謝してます、応援してくれている全ての方に感謝しています! 本当にありがとうございました!!」(原文まま)
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)