「死に場所」を探すボクサー人生最終章 32歳、元世界王者・岩佐亮佑が引退できない訳
「プロになって13年、納得した死に方をしたいです」
簡単には手にできない世界挑戦のチャンス。体も、心も再び燃え上がらせるのは並大抵のことではない。敗北から44日後。インスタグラムにつづった。
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「ボクサー人生も終わりにむけて走り始めてるのは確か、プロになって13年、納得した死に方をしたいです」
再起を決めた。1年半が経った今、当時の心境を明かす。
「あの負け方では自分のボクシング人生、18歳から始めたプロ人生は辞められない。納得できない。自分で納得するために、しっかり納得してボクシング界を去るためにも再起した」
やり残しをつくりたくない。新型コロナウイルス感染を懸念し、ジムでも一人、時間帯を変えて練習。セレス小林会長は「あいつは、ほんとプロですよ」と舌を巻いた。中学生から見てきて約20年。歴戦のダメージもある。命の危険があるリングに中途半端な気持ちで上げさせられない。「正直、今回の試合で引退させようとしていた」
会長も元WBA世界スーパーフライ級王者になったボクサー。闘争心を再燃させる難しさを知っている。
「上に行けば行くほど、登れば登った人ほど、次の試合に向けた気持ちの作り方って凄く大変。僕も(2度目の防衛戦で)負けた後に世界戦の話もあった。でも、やらなかったのは、あれだけのことをしても勝てなかったから。『あれ以上のことをしないといけない』という気持ちになるでしょ。『もう一回』という気持ちをつくるのが凄く大変。ボクシングは命が懸かっているから。だから僕は辞めたんです」
ただ、ミットを持つと苦楽を共にした愛弟子の仕上がりに身震いした。「やっぱり一日でも長く見ていたいと思えてくる」。過去最高にフィジカルトレーニングをやってきた岩佐。今回も2人でああしよう、こうしようと作戦を考えてきた。一緒に世界王座を2度手にした快感をもう一度。2人の覚悟は一致した。