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ラグビーW杯まで11か月、日本代表の現状は? “1.5軍”豪州戦で見えた列強打破の条件

3戦目の山中のトライに見えた理想の姿

 ジェイミージャパンという精密機械の歯車が、フル稼働とまではいかなくても、チームが競り勝つ程度までは機能し始めたのが、52-48という乱打戦で逃げ切った第3戦だった。

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 防御面では、後半16分のPKからの速攻で奪われたトライのように、一部の選手の反応が遅れるなどの課題も露呈したが、開始3分のFB山中亮平(コベルコ神戸スティーラーズ)のトライを見ると、CTB(センター)ディラン・ライリー(埼玉WK)のグラバーキックに、WTB松島幸太朗(東京サントリーサンゴリアス)、FB山中が鋭く反応して、松島がタックルを受けながら浮かせたオフロードパスを山中が足にかけ、そのままゴールで自らグラウンディングして仕留めている。そしてトライシーンでは、山中以外にも松島、ライリーが最後までサポートランでボールを追っているのも印象的だ。80分間のフルタイムとは言い難いが、日本流の組織プレーがスコアに繋がっていたのは間違いない。

 日本代表は、スポーツ版“下町ロケット”のようなチームとでも表現するべきだろうか。世界の列強が体の大きさや、ラグビー経験値などを豊富に持つエリートを揃える大企業なら、日本は少ない資源を、技術力や細かさ、丁寧さで補い、同じ土俵で勝負する。裏を返せば、他の代表チーム以上に、チーム作りに時間をかけなければ、列強と太刀打ちできないのは宿命とも言えるだろう。この「時間」という問題が、3試合目でようやく勝てるチームという結果に結びついている。

 他のチーム以上に時間をかけて、精巧なトライまでの設計図を完璧に遂行することが、日本代表の強みになるのは、2019年W杯から変わらない。時間が武器となり、その一方で課題にもなる。2020年からのパンデミックによる強化の停滞が、ジェイミージャパンに与えた影響は甚大だ。ジョセフHCも、会見のたびに他国よりもテストマッチが十分に組めなかった20、21年シーズンの困難に触れているが、今回のテストマッチではない3連戦も、このような日本代表の「空白」を埋め合わせようという苦肉の策だ。19年大会まで主将を務めたFLリーチ・マイケル(東芝ブレイブルーパス東京)も、異例の3連戦の価値を認めている。

「強い相手とやれたのはすごく嬉しい。格下の相手とやって得るものと、強い相手とやって負けて得るものは全然違う。若い選手が、リーグワンよりも高いレベルで試合をできたことが良かった。このレベルの相手とやれることは、1個のミスがどれだけ痛いかをチームとして分かったし、ミスだけじゃなくて自分たちのプランが遂行できなかった時に、どれだけダメージになるかも分かったと思う。最後に、ぎりぎりだったけれど勝てたのも良かった」

 チームは、ようやく19年W杯で見せたような15人が有機的に連係し、機能するスタイルの片鱗を見せ始めている。テストマッチシリーズの第1戦でいきなり激突するニュージーランド代表“オールブラックス”を倒すには、まだまだ断片的で、精度も熟成も必要だが、28日から宮崎に再集合する桜の戦士たちが、どこまで繋がりを持った組織を進化させることができるのかに注目したい。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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