ラグビーW杯まで11か月、日本代表の現状は? “1.5軍”豪州戦で見えた列強打破の条件
日本代表だからこそ可能な「時間」という強み
そうしたなかで、日本代表は強化期間を潤沢に持てることを強みとして活用してきた。この“時間”という恩恵は、プロ化が進むなかでも日本のラグビーがいまだに企業スポーツベースで行われていることが影響している。企業、そしてその企業の保有するチームが、W杯に挑戦する所属選手を支援するために、長期間チームでの活動や社業から離れて代表での活動を優先させることを容認していることで、代表の活動時間を拡大できた。
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他国代表がかけられないほどの合宿時間の中で、選手に戦術やスキルを落とし込み、入念に戦術を組み上げた。“寄せ集め集団”を、組織化された19年大会へ向けたスローガンのように“ワンチーム”へと変貌させている。ジョセフHCはもちろんだが、トニー・ブラウン・アシスタントコーチが、細かい部分まで突き詰めて完成度を高めようとする日本の国民性も理解しながら、時間をかけて精密機械のような組織プレーを構築できたことが、あの19年の稲垣のトライに結びついている。
日本代表ならではの強みを、稲垣はさらに掘り下げる。
「選手それぞれの役割があって、なんでそんな役割をプレーするのか、その役割によってどこにチャンスが作れるのか、そして自分はどこで貢献しているのか。自分がどこのエリアで、どういう動きをすればいいのかというのは、たぶん選手は指示されればなんとなくできるんです。ただ、それをなんのためにやるのかという深いところまで理解し、遂行するには時間がかかる。(第3戦を終えての状況は)ようやくというところじゃないですか? 前回のW杯の時は相当な時間をかけましたよね。結果はなかなか出なかったなかで、自分たちはプランを信じてやるしかない、そういうところですよね」
9月4日の候補合宿からスタートした今シーズンの代表強化期間は、都合6週間になる。一般論で考えるなら、代表の活動期間としては十分な時間と考えることもできるだろう。それでもオーストラリアAを相手に1勝しかできなかったわけだが、稲垣が語ったように、選手個々の領域までやるべきプレーを浸透させ、15人を組織として機能させるという日本流の強化を考えれば、時間の尺度が変わってくる。
敗れた第1、2戦を見ても、2試合ともに先制点をマークして、個々のフィジカルなどでも互角に戦えたからこそ、途中まで日本がリードする展開にもつれ込めた。しかし、両試合とも後半に追い上げられ、日本の防御が一瞬、連係を緩めたり、間を作ってしまった隙を突かれて致命的な失点を許している。このような状況を、稲垣は「15人でやるスポーツだから、1人ひとりの能力が上がらないとチームとして強くならない。自分のプレーが遂行できて、やっとチームの歯車が回るんです。1人ひとりの歯車が回らないと、15個の歯車も回らない。1個目が回らないと最後の歯車まで回らないし、2個、3個、8個目まで回っても、9個目が止まったら残りは動かない」という例え話で語っている。第2戦を終えた時点では、日本代表(ジャパンXV)という精密機械は、リードを持って80分間を終えられるまでの完成度には達していなかったのだ。