甲子園で清宮幸太郎にHR浴びた球児は今 野木海翔、25歳 153km剛腕のNPBラストチャンス
甲子園で清宮幸太郎に打たれた本塁打が残した教訓
2015年8月17日。全国高校野球選手権大会、準々決勝。
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九州国際大付(福岡)の背番号11をつけた3年生・野木は、のちにプロ入りする左腕・富山凌雅(現オリックス)、4番・山本武白志(元DeNA)ら強力布陣で、早実(西東京)を迎え撃った。その3番に座っていたのが、清宮幸太郎。当時1年生にして、高校球界の顔だった。
リトルリーグ世界一になった怪童は、入学直後から本塁打を量産。夏までに13本を積み上げた。西東京で快進撃を演じ、乗り込んだ甲子園でも勢いは止まらず、3回戦の東海大甲府(山梨)戦でついに甲子園1号。テレビも、新聞も、「清宮フィーバー」に染められた。
「本当にどこを見ても、取り上げられるのは清宮君ばかり。ねじ伏せてやろうという気持ちでいっぱいでした」。負けん気を力にしてこそ高校球児。野木だって日本一を目指し、故郷・京都から親元を離れ、福岡に渡った。怪物とはいえ、2学年下。燃えないわけがない。しかし――。
滞空時間、わずか3秒。0-2で迎えた4回の第2打席、膝元の130キロのストレートを弾丸ライナーで右翼ポール際に運ばれた。
「対戦する前から、間近で素振りをしているわけじゃないですか。それを見て、やっぱりスイングは別格だと思いました。実際、あのホームランは2打席目ですが、1打席目で対戦(投ゴロ)した時も圧があって、やっぱり凄いなって思っていたんです。
だからこそ、内攻めを徹底していったけど、ちょっとだけシュート気味に入った。でもたぶん、あのレベルの選手じゃないと、あそこまでの打球はいかないはずなんです。そこを逃さず運ばれ、こういう人が上の世界に行くのかと思ったことを覚えています」
清宮の一発をきっかけに打ち込まれ、4回4失点で降板。ベスト8で甲子園を去り、野木の高校野球は終わった。
しかし、あの夏の経験は、のちの野球人生に特別な教訓を残してくれた。
「上の世界では、甘くなる“ちょっと”が命取りになると体感できた。1球ですべて決まることがある。その1球の大切さというのは、身をもって学んだことです」
1球の怖さを知っているから、1球にこだわる。その想いが、野木を大きく、強くした。
徳島加入直後だった昨秋ドラフトは指名されず。「大卒2年目以上は即戦力。150キロを投げられても、いかにコースに決めるか、150キロを生かせる変化球があるか、そこがまだ1軍レベルではなかった」。今年はスライダーをカウント球、決め球の両方で使えるように磨き、投球の幅を広げた。
リーグ戦は守護神を務め、25試合で1勝3敗8セーブ、防御率1.88。落差のあるフォークも冴え、奪三振率は圧巻の12.24を記録し、NPB入りに期待も膨らむ。
スカウト陣へのアピールを問うと「自分にとってはラストチャンス。本当の意味で、自分は人生を懸けている。それは、自分の中で一番強く持っている」と言い切った。見る夢には、期限がある。野球を始めた6歳から憧れるプロの世界の厳しい現実。しかし、夢があるから、ここまでこられた。
残り2か月。野木海翔は、その1球に人生を込める。
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(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)