日本やり投げ界の歴史を変えた北口榛花 今だから笑える「満遍なく辛かった」原石の重圧【世界陸上】
オレゴン世界陸上が22日(日本時間23日)、米オレゴン州ユージンのヘイワード・フィールドで第8日が行われた。女子やり投げ決勝では、北口榛花(JAL)は63メートル27で銅メダルを獲得。五輪を通じ、投てき種目日本女子初のメダル獲得という歴史的快挙を達成した。メダルではなく、あえて入賞を目標にした今大会。将来を嘱望された「原石」の一員として、周囲の期待と闘ってきた日々だった。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
オレゴン世界陸上
オレゴン世界陸上が22日(日本時間23日)、米オレゴン州ユージンのヘイワード・フィールドで第8日が行われた。女子やり投げ決勝では、北口榛花(JAL)は63メートル27で銅メダルを獲得。五輪を通じ、投てき種目日本女子初のメダル獲得という歴史的快挙を達成した。メダルではなく、あえて入賞を目標にした今大会。将来を嘱望された「原石」の一員として、周囲の期待と闘ってきた日々だった。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
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もう冷静でいられない、いる必要がない。北口は泣きじゃくった。最終試技を終え、スタンド最前列に降りてきたチェコ人コーチのデービッド・セケラック氏と抱擁。直後に銅メダル確定を知る。日の丸に身を包み、口を覆いながら泣いた。
「なかなかうまくいかない時期もたくさんあった。海外で過ごす時間が長くて、家族と一緒に過ごせなかったり、友だちと遊べなかったり、コーチとたくさん喧嘩したり。このメダルで日本女子やり投げ界の勢いを加速できたらいい」
試練を乗り越えるビッグスローだった。1投目に62メートル07を投げ、暫定2位に。5投目まで記録を伸ばせず、同5位に転落した。「これは乗り越えなけきゃいけない局面だ」。高校時代、勝負強かった自分を脳裏に蘇らせた。「私は6投目にできる子」。最後の一投。高い放物線を描いたやりが芝生に突き刺さった。世界の観客をも沸かせる63メートル27。再び2位に浮上した。
しかし、本人はメダル圏内に届いていないと思い、その場でしゃがみ込んだ。「ああ、ダメだった」。もう一度大型モニターを確認。「2番になってない!?」。あんぐりと開いた口を閉じられない。コーチのもとへ走った。直後に米国選手に抜かれたが、4位とは2センチ差の銅メダル。抱擁する師弟に周囲の観客から労いの拍手が送られた。
「正直、ダメだと思っていた。後ろの2人が強いと分かっていたので、絶対に抜かれると思って『ダメだ、ダメだ……』とコーチに言っていたけど、抜かれなかった時になんかもう良くわからなくて。ほっとした安心感が強かった。自然に涙が出てきました」
ライバルたちと順番にハグ。カメラを向けられると、泣き顔に持ち前のスマイルが入り混じった。メダリストたちのウィニングラン。「私も走っていいの? 3位も走っていいの? 1位だけなのかな」。日の丸がオレゴンになびいた。
一本のやりのごとく、真っすぐに自分を貫いた。やり投げ王国チェコのセケラックコーチに19年から師事し、同10月に21歳にして66メートル00の日本記録を更新。リオ五輪銀メダル相当の好記録を叩き出し、東京五輪に向けて期待の新星として脚光を浴びた。日に日に高まる周囲の期待。「かなり早いスピードの成長を求められた気がした」。五輪は日本勢57年ぶりの決勝に進んだが、予選後に抱えた左腹斜筋の肉離れの影響で12位に終わった。