世界陸上にいた81歳現役カメラマン マラドーナの「神の手」を撮った男の衰えない情熱
オレゴン世界陸上は米オレゴン州ユージンにて、連日熱戦が繰り広げられている。世界中の選手はもちろん、メディアも各国から集結。その中に世界のスポーツ史に残る1枚の写真を撮影した81歳のイタリア人カメラマンがいた。「THE ANSWER」の記者が直撃。1986年に生まれた伝説のシーンを振り返ってもらうと、仕事に向かう姿からは情熱が溢れていた。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
オレゴン世界陸上
オレゴン世界陸上は米オレゴン州ユージンにて、連日熱戦が繰り広げられている。世界中の選手はもちろん、メディアも各国から集結。その中に世界のスポーツ史に残る1枚の写真を撮影した81歳のイタリア人カメラマンがいた。「THE ANSWER」の記者が直撃。1986年に生まれた伝説のシーンを振り返ってもらうと、仕事に向かう姿からは情熱が溢れていた。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら
◇ ◇ ◇
メディアセンターでまさかの出会いがあった。この日出場する日本人選手の予定稿を執筆中。隣に座ってきたおじいさんが、片言の英語で何やら話しかけてくる。仕事したいのに……と思いつつ、耳を傾けている時だった。
「マラドーナの“神の手”ゴールを知ってるかい? あれ、私が撮ったんだよ」
はい!? キーボードを打つ手は止めざるを得なかった。
1986年メキシコW杯準々決勝のイングランド戦。0-0の後半6分、アルゼンチンの英雄ディエゴ・マラドーナがGKと競り合い、浮き球をゴールへと流し込んだ。相手選手はハンドを猛アピール。しかし、ヘディングと判断され、先制点が認められた。マラドーナは直後に「5人抜き」で2点目を奪い、2-1の勝利に貢献。どちらのゴールも歴史に残るシーンとなり、マラドーナを伝説の存在へと押し上げた。
世界的物議を呼んだ神の手ゴール。荒れた映像でも左手で押し込んだことが確認できなくもないが、マラドーナの顔が見える正面のピッチレベルから撮られた1枚は誰が見ても明確で決定的証拠になった。
自分が撮ったと明かしたのは、イタリアのカメラマン、ジュリアーノ・ベヴィラクアさん。この角度、この瞬間を撮れたのは「私だけだ」。名前を検索すると、多くの海外メディアであの写真とともにヒットした。どうやら本当のようだ。
当時について、柔和な笑みを浮かべながら教えてくれた。
「あの時はフイルムだったから、撮った時はハンドだとわからなかったんだ。あとで気づいたんだよ。イングランドとアルゼンチン戦はエスタディオ・アステカ(会場)で正午からの試合。午後4時から離れたところで2試合目があったんだ。スペイン対ベルギー戦だ。私は移動しても、自分がハンドの写真を持っていることを知らなかった。フイルムを現像した後、写真を見たんだよ」
ほぼデジカメ世代の筆者。いつの間にか36年前の話に惹き込まれた。
現在はフリーカメラマンとして活動する81歳のベヴィラクアさん。なんと夏冬28回の五輪、W杯は12回も撮影してきたという。昨年の東京五輪は男子サッカー決勝などを担当。今年2月は北京五輪にも足を運んだ。「トウキョウは暑かった」と笑う。日本語も「チョットダケ」と言いながら、また驚きの経歴を明かした。
「私の最初のオリンピックはトウキョウ。ロクジュウヨン(64)だ。2021年の五輪が2回目のトウキョウだった。私だけがトウキョウを2回とも撮影した」