「暴力」で人は育たない 日本に未だ残る理不尽な指導が、スペインで成立しない理由
名将デル・ボスケが敢えて目をかけた素行の悪い選手
もっとも、欧州や南米の指導がすべて肯定されるべきではない。日本式の良さがあるからこそ、これだけの選手たちを輩出しているのだろう。「進学」をベースにしたアプローチには賛否はあるだろうが、大学サッカー部からこれだけのプロ選手を出しているのは、ワールドカップでベスト16に進むような国では日本だけだ。
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しかしながら、秀岳館高校サッカー部のような例は許されない。調査で20件以上の暴力行為が確認されるなど異常と言える。監督も、コーチも、サッカーを歪めてしまった罪は重い。
「サッカーが好き」
その純真さを搾取する行為は、どれだけ成績を残そうとも認められないものだ。
スペイン代表を世界王者、欧州王者にした名将ビセンテ・デル・ボスケは、レアル・マドリードの下部組織で指導者をしていた時代も実は長い。
育成に携わっていた当時、デル・ボスケは敢えて素行が悪い選手にも目をかけたという。対話、会話によって、その良さを引き出した。チームのために戦えるような選手は、ある種のエネルギーを持っているからで、1人の人間として周りから頼りにされ、それに応える喜びを与えることで、正しくエネルギーを放出させた。それによって、集団全体の熱量も上がったのだ。
「マドリード下部組織からプロになると、1人前の男になっている」
それは定説で、ジェンダー問題があるなら「男」を「人間」に置き換えよう。
指導者がやるべきことは、辛抱強く人間を育てることである。
(小宮 良之 / Yoshiyuki Komiya)