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「暴力」で人は育たない 日本に未だ残る理不尽な指導が、スペインで成立しない理由

名将デル・ボスケが敢えて目をかけた素行の悪い選手

 もっとも、欧州や南米の指導がすべて肯定されるべきではない。日本式の良さがあるからこそ、これだけの選手たちを輩出しているのだろう。「進学」をベースにしたアプローチには賛否はあるだろうが、大学サッカー部からこれだけのプロ選手を出しているのは、ワールドカップでベスト16に進むような国では日本だけだ。

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 しかしながら、秀岳館高校サッカー部のような例は許されない。調査で20件以上の暴力行為が確認されるなど異常と言える。監督も、コーチも、サッカーを歪めてしまった罪は重い。

「サッカーが好き」

 その純真さを搾取する行為は、どれだけ成績を残そうとも認められないものだ。

 スペイン代表を世界王者、欧州王者にした名将ビセンテ・デル・ボスケは、レアル・マドリードの下部組織で指導者をしていた時代も実は長い。

 育成に携わっていた当時、デル・ボスケは敢えて素行が悪い選手にも目をかけたという。対話、会話によって、その良さを引き出した。チームのために戦えるような選手は、ある種のエネルギーを持っているからで、1人の人間として周りから頼りにされ、それに応える喜びを与えることで、正しくエネルギーを放出させた。それによって、集団全体の熱量も上がったのだ。

「マドリード下部組織からプロになると、1人前の男になっている」

 それは定説で、ジェンダー問題があるなら「男」を「人間」に置き換えよう。

 指導者がやるべきことは、辛抱強く人間を育てることである。

(小宮 良之 / Yoshiyuki Komiya)

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小宮 良之

1972年生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。トリノ五輪、ドイツW杯を現地取材後、2006年から日本に拠点を移す。アスリートと心を通わすインタビューに定評があり、『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など多くの著書がある。2018年に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家としてもデビュー。少年少女の熱い生き方を描き、重松清氏の賞賛を受けた。2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を上梓。

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