世界と戦う陸上・田中希実 広島で見た、全レースを無駄にしない「自分を律する力」
異例の間隔でレースに出る理由「甘えが出てしまう」
昨夏の東京五輪は1500メートルで日本新を連発し、決勝で8位入賞の快挙を果たした。一方、5000メートルは予選敗退。世界の猛者が集まった最高峰の舞台でタフなレースを経験した。主導権争い、駆け引き、地力。様々な要素の掛け算で争う必要性を再認識。今月は400メートルから1万メートルまで異例の間隔で多数のレースに出場した。
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「(9月の)アジア大会の選考が春先から始まることもあって、今季は早めに仕上げていかないといけない。少し荒療治にはなるんですけど、レースでバンバン刺激を入れていかないと甘えが出てしまう。どういうレースをするかしっかり念頭に置く。全てのタイムが中途半端ですが、『400メートルのスピード』『1万メートルのスタミナ』をアイテムとして、頭で考えるより体で覚えるようにしている段階です」
1500メートルのわずか25分後に1万メートルを走った日もある。驚異的なスケジュールだが、5月1日の木南記念(大阪)、同3日の静岡国際(静岡)はともに800メートル、同8日のセイコーゴールデングランプリ(東京)で1500メートルと連戦を予定。「その後はアメリカ遠征で何本か転戦を考えています。だから、5月の方が4月より走る」と事もなげに語った。
「強くなりたい」と競技人生の目標を語る。この日、13分ほどあった取材時間のほとんどで課題が口をついたように、満足感を得るには程遠い。汗の滲んだ横顔は、国内大会であっても世界に向いていた。
「強くなれている感じは今のところあまりない。レースプランは誰もやったことがないという自信はありますが、それは誰もやっていないだけで、やろうと思えばできるようなことしかできていない。誰にも真似できないようなタイム、結果を出してレースを進めていけるようになりたい」
7月はオレゴン世界陸上だ。各種目の出場権争いは加熱していく。「まだ出場種目がはっきりしていない」としつつ、「800メートルから5000メートルまでは自己ベストを出したい。どの種目でもそれができれば世界陸上にも出られるし、世界陸上でしっかり自分のレースができる」と言葉は熱を帯びた。
どんなレースにも明確な意図を持ち、絶対に無駄にしない。だから強くなれる。当たり前のことにも思えるが、これを緩めず続けるのが難しい。22歳は常に自分を律しているように見えた。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)