31歳柔道家がまだ引退しない理由 五輪代表落選で生まれた「本物の覚悟」とは何なのか
大学時代に対戦、30代の鈴木桂治らに感じた「凄い意地」
練習を続ける中、進むべき矢印の方向が定まり始めた。
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「今までは何かの目標のため、五輪のためだったんですけど、全日本選手権に向かう中で考え方が変わっていきました。年を取ってキャリアを重ねていくと、応援してくれている人が増えていく。その人たちのために勝ちたい、喜ばせたいとハッキリしていきました」
ファン、家族、トレーナーらが支えてくれた。「まだやれるでしょ」「まだまだ戦う姿を見せてほしい」。体は十分に動く。「この人たちに返していかなきゃ。もうひと踏ん張りしよう」。恩返しを原動力にすると決め、蘇った。
「自分だけの目標ではなくなったのが、今も戦い切れている理由なのかなと思います」。人のためを想うと、柔道の中身がより濃くなった。「また一つ違う覚悟ができた。踏ん張りが効いている感じ」。全日本選手権で初優勝。体重無差別で「日本一」の称号を手にした。
30代に入り、1年が経った。回復力など体の変化もある。「やりたかったことができなくなると、もどかしさを感じる」。一方、できることも増えた。若い時にはない発想、客観的に自分を見る目が成熟。練習不足とオーバーワークの境目を把握し、経験則が試合への調整にプラスをもたらした。安定したパフォーマンスの発揮に繋がった。
東京五輪代表落選から数か月で湧き出た覚悟。一瞬の勝負の分かれ目、延長戦でぶっ倒れそうな時間帯に生きてくる。自身も大学時代、試合で組み合った30代の先輩たちから“覚悟の差”を感じ取ってきた。
「鈴木桂治さん(現・全日本男子監督)とか、小野卓志さん(現・全日本男子強化コーチ)と試合をした時、凄い意地を感じていました。最後までやり切ろうとする。そこで負けていく他の先輩には、最終的に気持ちが折れているようなところがありました。年を取ったから最後にポキッと折れるような、少し諦めが出てしまうようなところ。今も勝負をする身としては、絶対にそうはなりたくないというのがあります」