ネット高校の「N高東京」がフィギュア選手を応援する理由 紀平梨花らが1万7000人の光に
同じN高フィギュア選手らの活躍で「他の生徒が勇気づけられる」
それは、練習環境が特殊なフィギュアスケート選手にはなおさら。拠点とするスケートリンクは数が限られ、練習時間は早朝や深夜が多い。まして遠征が多く、トップ選手になれば10代でも海外での合宿や大会がざらにある。
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「世界中どこにいても授業は受けられます。練習の合間をうまく使い、時間がある時はしっかりと受けておいて、試合前には少し休んで調整ができる。その点はフィギュアスケートをする生徒たちに合っています。紙のやりとりも全くなく、すべてパソコンもしくはスマホでできますから」(奥平校長)
選手もその環境を生かしている。アスリートクラスで長く担任を担当し、選手をサポートしてきた小嶋春輝教諭は「(アスリートクラスには)“やるべきこと”である学習と“やりたいこと”である競技活動をよく考え、計画的かつ熱意をもって取り組むことができ、競技のみならず私生活や苦手なことにも試行錯誤しながら前に進むことができる生徒が多いです」と印象を語る。
その代表的な存在だったのが紀平だった。中学のジュニア時代から世界レベルで活躍。シニアに転向する18-19年シーズンの春に入学した。「彼女はキツイ練習もこなしながら、勉強も凄く頑張っていた。自己管理がしっかりとできる生徒でした」と奥平校長。在学期間中に4大陸選手権と全日本選手権を連覇するなど活躍。「紀平のN高」と言われることも増えた。
また、紀平の1年先輩で19年全日本選手権3位・川畑和愛(現早大)は通学コースに在籍。2、3年次に担任を務めた石井郁子教諭は「競技に対する姿勢や生活はもちろんストイックでしたが、単位修得のための学習、受験勉強、学校行事、趣味、何事にも一生懸命で手を抜かない」と振り返る。
「朝の練習を終えてスーツケースを引いて登校し、睡魔と闘いながら真剣にメモを取って動画教材に取り組む姿は忘れられません。海外遠征で朝に羽田空港に到着し、そのまま登校して模試を受けたことも印象的。競技に打ち込みながらも普通の高校生活を送りたいと通学コースを選び、学校行事にも積極的に参加していました。キャンパスごとの文化祭では、屋台の下ごしらえで野菜をひたすら切っていたのを思い出します」(石井教諭)
ひたむきな努力で結果を求め、競技力を高める彼女たちの存在は、N高等学校として好影響があった。
「同じ15~18歳というN高の高校生が活躍することで、他の生徒が勇気づけられる。これが一番大きい。アスリートクラスの生徒には『N高1万7000人の生徒がみんな応援してくれている』とよく言います。うちの代表のような存在。特にフィギュアの選手は舞台が世界ですから」(奥平校長)
前編に記した通り、同校にはさまざまな事情で通う生徒がいる。最も必要としているのは「生徒が自分自身に自信を持つ」ということ。アスリートとして輝く彼らは、同じN高生として希望となり、活力となり、それぞれの成長につながっていく。
これこそがフィギュアスケートを含め、N高がスポーツを頑張る高校生を応援する理由でもある。