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フィギュア選手の足元を支える職人の極意 火花の向こうにある「0.01mm」の世界と情熱

「面粗度(表面の粗さ)は100分の1ミリぐらいの差で出していく」、職人としてのこだわりが垣間見える【写真:中戸川知世】
「面粗度(表面の粗さ)は100分の1ミリぐらいの差で出していく」、職人としてのこだわりが垣間見える【写真:中戸川知世】

職人としてのこだわりとは?に即答「選手に無理に合わせない」

 師匠が開いたフィギュアスケート用品店「アイススペース」で靴・ブレード担当を務め、主に千葉・南船橋店に勤務。業界ではスケート教室の先生が削ることが多く、「加工業と研磨職人をしているのは自分くらいじゃないですかね」と専門業者の数は多くない。櫻井さんは日本代表を含め、全日本選手権に出場するようなトップ選手10人ほどに関わり、スケート教室のちびっ子、趣味で楽しむ大人まで幅広く依頼を請け負っている。

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 職人の世界は言わずもがな奥深い。ブレードは中央がU字に凹んでいて、幅はおおよそ3~4ミリ。左右のエッジを削ることで氷上での滑りやすさがガラリと変わる。依頼は年間500足ほどあり、1足15~20分で対応。コロナ禍以前は海外選手からの持ち込みもあった。

 最初に機械で火花を散らしながら削った後、砥石を使いながら手で微調整。ここに素人には到底わかりえない世界がある。

「面粗度(表面の粗さ)は100分の1ミリぐらいの差で出していきます。目と手の感覚だけでやりますね」

 しかも包丁のように、とにかく切れ味を良くすればいいというわけではない。ジャンプ、スピン、ステップなど氷上で種類の異なる動きをするフィギュアスケート。「好みによっては、わざと切れ味を鈍くしてあげることもあります」。トップ選手は3~5週間に1回のペースで研磨。大会に向けて1~2週間前に依頼するが、櫻井さんは本番でベストの切れ味になるように見越して手を動かす。

 靴を一から組み立てる場合は靴の種類、サイズ、ブレードを選別。それぞれが決まればブレードを取り付け、研磨に取り掛かる。問題がなければ、30分ほどで完成。試走してもらい、コミュニケーションを取りながら修正を加えていく。

 ブレードに向ける眼差しは鋭い。職人としてのこだわりとは。月並みな質問に「基本」と即答した。

「基本に忠実に。変なことはしないです。その選手に無理に合わせようとはしません。もちろん普段やらないことをやることもありますけど、無理に作ってしまうと、そのセッティングじゃないと滑れなくなってしまう。その選手がゆくゆく苦労してしまうんです。激辛ラーメンしか食べられなくなるようなもの。体にも負担が掛かってしまいます」

 怪我の原因にもなりかねない。もし引っ越しをしたら、もし職人が倒れたら、その度に選手は余計な苦労に直面してしまう。「他の店に行った時、『なんでこんな激辛食べたの?』って言われちゃいますよ。その子も、次に作る人も大変。そんなふうにはなってほしくない」。その場限りではなく、未来を見据えたモノづくりを意識している。

 とはいえ要望を全く無視するわけではない。選手と会話を重ね、探りながら好みを記憶。データとしてメモに残すこともある。自身が経験者だけに、スケーターの感覚論を把握できるのは強みだ。

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