体操・村上茉愛、「幸せ」を掴んだ現役最後の日 燃え尽きた五輪から再起した83日間
無観客の東京五輪にはなかった光景「幸せ。これこそが試合」
平均台の着地で顔をしかめた。足を引きずりながらチームメイトとハイタッチ。「休めばすぐに回復する。床をきちんとやらなきゃ」。本命の床運動。一つ一つの技に拍手が注がれ、手拍子が自然発生した。一度は失いかけた気力が燃え上がる。H難度の大技「シリバス」に成功。小学生時代から武器とした代名詞で観客を存分に楽しませてみせた。
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「足首の不安、久々にお客さんがいる不安、(重圧のある)日本での試合というのもある。平均台は足がガクガクした。でも、五輪なのにお客さんがいないという違和感から解放された。応援の力に助けられた試合です。お客さんがいることの幸せを感じました。これこそが試合だと思う」
世界体操は17年に床運動で日本女子63年ぶりの優勝。18年大会は日本初の個人総合銀メダル、床運動銅メダルだった。最後に手にしたのは4年ぶりの金メダル。残してきた功績は大きく、後を追う若手も多い。スタンドからは学生たちが応援ボードを掲げて見守っていた。無観客の東京五輪にはなかった光景だ。
「みんなに楽しんでもらえている感じがした。目標にしていた『人のために演技をする』というのを感じられて嬉しかったです」
誰かを想い、演じたからこそ得られた「幸せ」。体操人生の最後に花を咲かせた裏には、そんな原動力があった。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)