606日かけて縮めた0秒01と日本新記録 その刹那、溢れ出した陸上・寺田明日香の母娘愛
0秒01更新で喜びを爆発させた数秒後、娘を探し「早くおいで!」
東京五輪の夢を追う中、日本記録を塗り替えたレース。寺田は喜びを爆発させたほんの数秒後、両手をおでこにかざし、スタンドにいる6歳の愛娘を探した。「おいで! 早くおいで!」。下から煽るように腕を振った。タイムが表示された電光掲示板と記念撮影。娘はママの胸に飛び込み、嬉し涙を流した。ボードの前で写真を撮るのは、母娘の約束だった。
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「嬉しいって言われた時に私もウルっと来ました。嬉しくて泣くというのが彼女の中にある。しかも、自分が走って記録を出したことに対して嬉しくて泣くというのは、母親として彼女の大きな成長を感じます。それを私ができたことも嬉しかった」
母娘愛を溢れさせるハードラーに「子どもの魅力」を聞いたことがある。記者は同い年の独身。世のお父さん、お母さんには当たり前のことかもしれないが、未熟な自分にとって説得力のある言葉だった。
「逆に子どもに対してどう思ってますか? うるせえなって思ってます?(笑)私も人間なのでイラッとすることもあるし、感情的になってしまうこともあります。でも、子どもが近くにいると『自分の知らなかった自分』が見えてきません? イライラしても、その時点で自分じゃない自分が出ているんですよね。
子どもに何かを伝える時も『あっ、私ってこういう言い方するんだ』とか。その子がこの言葉でどう感じるか、それを考えている自分がそもそも“自分じゃない自分”になっている。新しい面に気づかせてくれるし、私にない新しい発想も持っている。一緒に成長できる存在として凄く大きいと思います」
0秒01縮めた33日後、寺田は12秒87で再び日本記録を更新した。6月末の日本選手権は大会史上最長ブランクとなる11年ぶりの優勝。東京五輪は日本勢21年ぶりの準決勝進出を果たした。レース直前、自信に溢れたカメラ目線の笑みもカッコいい。大目標だった決勝進出は叶わなかったが、準決勝直後は充実した表情で涙を浮かべた。
4か月が経った12月9日、都内で「日本陸連 アスレティックス・アワード 2021」に出席。次世代に向けて夢を持つことの大切さを語った。
「一つのことに夢中になって取り組むことで見えてくる世界がたくさんあります。自分の目標をつくって進んでいく中で、いろんな方々に出会う。自分の夢がいろんな方々の夢にもなる。一緒に夢に向かって、あーだこーだ言ってやっていけることの楽しさだったり、幸せだったり、そういうことを感じられるのがスポーツの良さだと思っています」
夢を叶えるために何万時間もかけた母親の姿。その尊さは愛娘にも伝わったはずだ。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)