金メダルを狙って、わずか1勝&12か国中11位 7人制ラグビー日本が惨敗に終わった理由
11位という結果を真摯に受け止める必要がある
結果として、日本は韓国との最終戦で唯一の勝利を遂げて11位で開催国での五輪を終えた。前回大会の4位という成績から考えると、ファンの落胆はあるだろう。しかし、参加12か国の五輪までの実績をベースに考えると、日本の“立ち位置”が変わってくる。7人制代表には、15人制のような世界ランキングはない。替わりの物差しになるのが、ワールドラグビー・セブンズシリーズの年間成績だ。世界各国を転戦して、各大会ごとに得たポイントの合計で年間順位を争っている。昨年のシリーズはパンデミックの影響で6大会で中断となったが、暫定では1位がニュージーランド、2位は南アリカ、3位がフィジーで日本は16位だった。この成績を踏まえると、日本の11位は低いとはいえない順位になる。
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多くの国際大会が中止となった最近1年の強化をみても、日本の場合は感染対策として、国内で代表候補に限定された合宿を続けてきた。本格的な国際大会の参戦は、4月にUAE(アラブ首長国連邦)のドバイで2週に渡り開催されトーナメントのみ。国内合宿で、コロナ禍の中でも日本に在住し続けた留学生、外国人選手らを相手に実戦を行うなどの工夫はしてきたが、五輪クラスの強豪との真剣勝負がほとんど出来ないまま本番を迎えたというのが実情。世界16位のチームが3位近くまで実力を積み上げるような環境は作ることは出来なかった。
毎月のように続いた強化合宿でのリモート取材では、このような強化が難しい状況について不満を述べる選手は1人もいなかった。全員が、限られた条件の中ででも、代表合宿ができることに感謝し、関係者、ファンの期待に応えようと、メダル獲りを目指して自分の人生を犠牲にして打ち込んできた。ここまで書いてきたように、本番では明らかに力不足を感じさせるプレーもあったが、11位という順位を今の実力と受け止めて、3年後に迫るパリ五輪へと走り出すしかない。
その一方で、協会による7人制強化戦略は、しっかりと5年間の取り組みを分析、評価をして、次の強化に繋げていく宿題を残している。これまでも、このコラムで指摘してきたが、5年前のリオ五輪で世界4位という日本ラグビー最高の高みに立った7人制日本代表だが、その殊勲を果たした瀬川智広ヘッドコーチ(HC)を解任したことが本当に正しい判断だったのか。ここから検証をするべきだろう。
当時の強化責任者だったのは、現在7人制のナショナルチームディレクターを務める本城和彦氏と、東京五輪で指揮を執った岩渕健輔HCだ。説明では、瀬川HCの4位という結果を評価しながらも、日本が目指すのはメダル獲得であり、指導者に求めるのはチームを4位ではなく3位以上に鍛える手腕だということだった。つまり、3位以上に入るには瀬川HC以上の指導力のあるコーチが必要だということだが、終わってみれば11位という結果を、指導者としては、どう評価し、説明するのだろうか。
確かに前回4位のチームであっても、次に同等か、それ以上の成績を残せる保証は何もない。だが、リオ五輪へ向けても、チーム以外の誰もが4位になると期待していなかった中で、瀬川HCと選手は目指したメダルに1勝と迫る結果を残した。東京五輪へは、5年という時間をかけて、瀬川HC時代以上の強化の環境を整え、指導者を精査、吟味して、選手を強化してきたはずだ。そのチームが11位という結果に終わった原因は何かを洗い出し、2023年へ向けた強化に反映させていかなければ、リオの4位も、この5年間の道程も、意味のないものになり兼ねない。
グラウンドでの強化を再開する前に、先ず着手するべきなのは、パリへ向けた指導体制選考の出来る限りの透明化と公正さの確立だろう。どのような経緯、評価で、指導陣を選考、任命していくのかを明示して、第3者も交えた客観性を持った議論、評価が求められる。パンデミックの影響で、次回五輪までに残された時間はわずか3年だ。11位という結果を踏まえれば、さらに時間との戦いは深刻だ。新チームを出来る限り早くスタートダッシュさせるためにも、この5年の検証に基づいた新たな強化体制の確立が急務になる。
(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)