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金メダルを狙って、わずか1勝&12か国中11位 7人制ラグビー日本が惨敗に終わった理由

「THE ANSWER」は東京五輪の大会期間中「オリンピックのミカタ」と題し、実施される競技の新たな知識・視点のほか、平和・人権・多様性など五輪を通して得られる様々な“見方”を随時発信する。ラグビーライター・吉田宏氏は7人制日本代表のコラムを展開。日本勢の躍進が続く今大会でメダル獲りを目指した男子日本代表だったが、最終成績は韓国から唯一の勝利を遂げての12チーム中11位。前回リオデジャネイロ大会4位と、メダルまであと1勝と迫ったチームは、なぜ勝てなかったのか。新型コロナウイルスのパンデミックによる強化の停滞や、進化を続ける7人制ラグビーのいまを踏まえながら、セブンズジャパン5年間の挑戦と、2023年への課題を検証する。(文=吉田宏)

試合中、円陣を組むラグビー日本代表【写真:Getty Images】
試合中、円陣を組むラグビー日本代表【写真:Getty Images】

「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」#35

「THE ANSWER」は東京五輪の大会期間中「オリンピックのミカタ」と題し、実施される競技の新たな知識・視点のほか、平和・人権・多様性など五輪を通して得られる様々な“見方”を随時発信する。ラグビーライター・吉田宏氏は7人制日本代表のコラムを展開。日本勢の躍進が続く今大会でメダル獲りを目指した男子日本代表だったが、最終成績は韓国から唯一の勝利を遂げての12チーム中11位。前回リオデジャネイロ大会4位と、メダルまであと1勝と迫ったチームは、なぜ勝てなかったのか。新型コロナウイルスのパンデミックによる強化の停滞や、進化を続ける7人制ラグビーのいまを踏まえながら、セブンズジャパン5年間の挑戦と、2023年への課題を検証する。(文=吉田宏)

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 メダル獲りを目標に掲げた5年間の戦いが終わった。番狂わせが多く、1つのミスで戦況が大きく変わる7人制だが、1次リーグに相当するプール戦で3戦全敗、最終成績も韓国からの1勝のみという結果を見れば、完敗といっていい内容。前回4位のチームは、爪痕すら残せずに母国での祭典を終えた。

 試合直後に岩渕健輔ヘッドコーチ(HC)は、今大会までの挑戦をこう振り返っている。

「世界中の全ての方々が大変な状況の中で、選手たちがグラウンドに立てる機会をいただいたことを、心から感謝します。選手たちは初戦に向けてベストな準備をしてくれていました。その初戦でチームを勝利に導けなかったことに強い責任を感じております」

 今大会で連覇を遂げたフィジーに挑んだ第1戦は、金星を掴むには最高の条件が整っていた。プール戦最強の相手ではあったが、日本での実戦経験がほとんどなく、初日朝9時のキックオフに、個人技が持ち味のフィジーは万全とは程遠い状態で臨んできた。汗のためかハンドリングミスも多く、攻守の集散も鈍い。想定どおりの不安定なスタートを切ったが、残念なことに日本も決して万全とは言えないパフォーマンスだった。

 フィジーの試合開始のキックオフボールを確保できず、ファンブルボールをそのままトライに結び付けられた。岩渕HCも「一番のポイントにキックオフを挙げていたが、フィジー戦を含めてキックオフで後手に回って、最後まで立て直せなかった」と悔やんだが、先制トライで優勝候補を浮足立たせたいというシナリオは開始直後に崩壊した。

 100%の準備を整えて、100以上のパフォーマンスでニュージーランドを倒したリオ五輪の開幕戦とは異なるスタート。しかし、優勝候補を相手に19-24の惜敗は、“プランB”としては悪くないシナリオだったはずだ。強豪相手に十分戦えるという感触は、選手の中にはあっただろうが、その勢いを2戦目以降にパフォーマンスとして発揮することはできなかった。続く英国戦での0-34の大敗を、松井千士主将は「(フィジー戦で)逆に自分たちが過信してしまったところがあったかも知れない」と語っている。この敗戦には、一貫性のある戦いができない日本代表の脆弱性もあっただろうが、対戦相手の日本対策も大きく影響していた。

 リオでも2試合目に対戦して19-21と渡り合った英国だったが、日本代表の弱みをしっかりと頭の中にインプットしていた。フィジー同様に、英国も自分たちのキックオフボールを確保しての連続攻撃で、ボールを右、左と大きく動かしてのノーホイッスルトライをマーク。グラウンドの横幅を広く使うことで、日本のライン防御を押し広げ、薄くしたところで突破を狙ってきた。1対1の状況を作り出せば、ステップ、オフロードパス、そして詰まればパワー勝負と、日本防御を破るのが容易いことは熟知していた。

 日本代表が掲げた「ビー(蜂)・ラグビー」というスタイルも、十分には機能していなかった。小さな働きバチが、運動量を生かして大きな相手にまとわりつく、数でサイズやパワーに対抗するスタイルをイメージしたが、フィジー戦の最後に奪われたトライは、中央でのPKから速攻を仕掛けた相手に、素早く反応できずにそのままインゴールを陥れられている。英国戦の後半最初に許したトライも、同様に相手の速攻に防御ラインを十分に形成でないまま奪われた。攻めても、運動量や組織力で相手防御を崩して獲ったトライよりも、松井のスピードなど個人技が目立った。運動量でパワーを補い、攻守にかける人数を増やす戦い方は、十分には機能していなかった印象だ。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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