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アフリカの貧困地で陸上教室 日本すら知らない子供たちへ、30歳五輪スプリンターの貢献

現地の子供たちと記念撮影した飯塚【写真:本人提供】
現地の子供たちと記念撮影した飯塚【写真:本人提供】

コロナ終息後の未来に描くビジョン「海外で一つの形を作りたい」

 12年ロンドン五輪後、モチベーションの作り方に影響を与える出来事があった。トークショーが終わり、車椅子に座った80代くらいの女性に話しかけられた。「走りを見て寿命が延びました。もっと長生きして頑張りたい」。長い競技生活、気が乗らない日もある。「でも、この言葉を聞いた瞬間に変わりました。誰かに影響を与えられて、やってよかったと思えたんです」。人の喜びを力に変える術を学んだ。

 だからこそ、陸上教室で出会った子たちに掛けられる「頑張ってください」という言葉が力になる。「競技だけはしっかりやらないといけないと思っているアスリートが多いですが、陸上教室を開く方が競技へのモチベーションも全く違う。これは、若いアスリートに伝えたいですね」。自分の考えがまとまっていないと人に伝えられない。年代や性格によってアプローチを変えることを学んだ。現役で陸上教室を開くことは、「与える」だけでなく「受け取る」場にもなっている。

 海外では日常に笑顔を与えることを目的としているが、国内では大人を対象とした競技普及を目指す。「長距離種目の市民ランナーはたくさんいるけど、短距離種目はいないんですよね。それを増やしたい」。短距離種目は筋力が必要。筋力をつけて基礎代謝を高めれば痩せられるため、健康増進に繋がるという。

「30歳を過ぎて代謝が落ちると、有酸素運動でも痩せにくくなる。筋力は年をとっても鍛え続けられます。全力で走ったり、飛んだりするのは健康に良いのかなと思う。実際に短距離種目をやっている大人の方々には『始めてからすごく元気になって、楽しくなった』という話を聞きます。今は場所が少ないのと怪我のリスクがあるのが課題ですが、これはみんなに味わってほしいです」

 コロナ禍により海外開催はもちろん、国内でも以前のようにはいかない状況だが、終息後のビジョンは描いている。

「海外では少し交流して終わるだけだったので、一つの形を作りたいと思っています。運動会でみんなと団結できることをやりたいですね。リレー以外だと、綱引きや大玉転がしとか。協力して何かをするのは大事です。国内でやりたいのは競技普及。探求心をつくって子どもたちの教育に繋げたいし、お年寄りにも元気になってもらいたい。僕のスポーツを通じた経験で街を盛り上げる。今ある市民スプリンターの大会も盛り上げていければ」

 長く現役でいればいるほど、夢を叶えるチャンスは増える。6月に30歳となり、若くはない。「パリとその次まで頑張るんで。自分の中ではあと2回。そこまでは頑張り続けます」。見据えているのは、なんと24年パリ五輪の先の28年ロサンゼルス五輪。大ベテランの37歳になる年だ。

「まあ、はっきりと五輪が目標とかは決めずにやれるところまで。2回ぐらいは頑張りたいっすよね」

 終始明るく、軽妙な口ぶりに夢を乗せた。トラックで見れば、そのスピードは当たり前かもしれない。でも、自分の街で目の前に現れたら……。価値のある体験を世界に届けていく。

■飯塚翔太 / Shota Iizuka

 1991年6月25日、静岡生まれ。ミズノ所属。小学3年から競技を始め、藤枝明誠高3年でインターハイ200メートル優勝。2010年のU20世界選手権では、短距離種目において日本男子初の優勝。12年ロンドン五輪、16年リオ五輪では200メートルと4×100メートルリレーに出場。リオ五輪ではリレーの第2走者を務め、史上最高の銀メダル獲得に貢献。日本選手権200メートルでは13、16、18、20年に優勝。自己ベストは日本歴代3位の20秒11。100メートルは10秒08。

(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)

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