ラグビー日本代表は進化しているか 強豪に連敗も欧州遠征で見えた“2023年への光”
リーチ主将も手応え「8週間しか練習できなかったにも関わらず…」
アイルランド戦のパフォーマンスについて、リーチ主将は「8週間しか練習できなかったにも関わらず、今日のような結果を出すことができたのは素晴らしいことであり、チームは今後も成長していけると思っている」と話しているが、チーム始動からの時間や、ライオンズ戦からの1週間という短期間で、戦術を修整させる能力に関しては、世界でもトップクラスと考えていいだろう。このスピードの要因については藤井ディレクターが説明している。
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「前回のW杯の前に3年かけて、サンウルブズでも大変な苦労をしながら、コーチ陣とリーダー陣が、どのようにしたらチームに早くいろいろな戦術、戦略を落とし込めるかというノウハウを身につけてきた。そういう意味では、新しいメンバーも含めて短期間に練習の意図だったり、やり方が染み込んできたので短期間で落とし込めたと思う」
日本選手の、ラグビーの知識、経験値とは若干異なる“賢さ”は、ジョン・カーワンHCが07年W杯までの強化の中で見出し、次の11年大会へ向けて強化に生かす戦略を立てたのが最初だろう。その後のエディー・ジョーンズ、ジョセフ体制でも、この“強み”が継承され、さらに戦術を高めるために使われ、ゲームプランや戦術の修正力にも生かされている。
グラウンド上で見せるラグビースタイルは、これまでを継承する展開力とスピードを重視したものだ。23年へ向けては、この遠征でも片鱗を見せたように、さらにボールを停滞させず、常に細かく左右に動かしながら、さらにSO田村優のキックで、縦軸でも揺さぶりをかけていくのが基本になるだろう。
コロナ禍での2年近いブランクは、高い完成度を求める日本のスタイルには痛手だったが、アイルランド戦後にジョセフHCは「ライオンズ戦ではチャンスを作れても取り切れなかったが、今日は良くなった。屈強な相手に対してテンポよく攻める自分たちがやりたいラグビーができた。2年間代表としてラグビーができていなかった中で、方向性は示せた。選手にも自信につながる」と、敗戦の中で大きな手応えも感じている。戦術をさらに熟成させ、ボールを動かし続けるためのパス、ラン、キックなどのスキル精度を高めるためにも、わずか2試合に限定されてはいたが、今回の再始動でのパフォーマンスで好感触は得ただろう。残された時間でW杯ベスト8を突破するための積み上げにも光明が見えてきたのではないだろうか。
この2試合のポジティブな部分に光を当ててきたが、当然ながら、2年後への課題も読み取ることが出来る。遠征初戦となったライオンズ戦では、大型選手がかけてくる重圧で自分たちのテンポを失う場面が、特にゲームの主導権を握るために重要な序盤戦から見られた。中でも、上半身を抱え込むようにして動きを封じ込めるチョークタックルには苦しめられた。このタックルは今春の欧州の6か国対抗でも多く見られたもので、今後の防御のトレンドになる可能性を感じさせられたスキルだ。
とりわけ、低い姿勢で相手に仕掛けて、ラックでボールを確保しながらテンポアップするのが信条の日本代表にとっては、上背と上半身のパワーのある相手選手に抱え込まれると、そのままモールが停滞したと判断され相手ボールスクラムになってしまう危険があり、ライオンズ戦でもこのようなシーンが何度も見られた。アイルランド戦では“チョーク対策”が見られたが、今後もライオンズが講じたタックルを日本に仕掛けてくるチームはあるだろう。
アイルランド戦でも、もし前半から相手がダイレクトにFWが前に出て体を当ててくるプレーを徹底してきていたら、戦況もスコアも変わっていた可能性がある。フィジカルコンテストの領域では、やはり海外出身の選手のパワーに頼る部分もありそうだ。前回W杯後に引退したLOトンプソン・ルークのように献身的に体を張り続ける選手が求められることになるが、主力LOに成長しているジェームス・ムーア(NTTコミュニケ―ションズシャイニングアークス)が、アイルランド戦で両チームトップの21回のタックルを見せている。ムーアに関しては19年のアイルランド戦でもトンプソンの19回を上回る23回のタックルを記録。今回の遠征でも安定感を証明したことになるが、やはりトンプソンの不在を埋める存在が求められる。