ラグビー日本代表は進化しているか 強豪に連敗も欧州遠征で見えた“2023年への光”
アイルランドに確かに通じた日本の速いテンポの攻撃
19年の敗戦も経験したアイルランドのLOジェームス・ライアン主将(レンスター)は、試合後に「2019年は厳しい試合だった。あの試合のことは確かに頭の中にあったので、今日の試合は強い気持ちで臨んだ。日本は組織的で攻撃が強く、タフな相手」と語っているが、ホスト国のリーダーとしての相手への敬意と同時に、日本を警戒して臨んだことも色濃く感じさせる発言だった。
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もちろん、ライアン主将の警戒感は頷ける部分も少なくはない。日本が速いテンポで攻撃を仕掛けることが出来た場面では、アイルランドも十分に対応できないことがわかる。
前半36分のCTBラファエレ・ティモシー(神戸製鋼コベルコスティーラーズ)のトライは、先ずSO田村優(キヤノンイーグルス)がキックパスでボールを右から左へ大きく動かし、左サイドで捕球したWTBシオサイア・フィフィタ(近鉄ライナーズ)が内側へ駆け込むことで防御を引き付けて外側にスペースを作り出し、そこに逆アングル、つまり外側へ駆け込んできたラファエレへラストパスを放っている。
ボールの軌道だけを見ると、左→右→左と移動して、アイルランド防御を揺さぶりながらインゴールへ向かっている。後半3分のフィフィタの代表初トライも、左オープンからのラックで、サイドを突いた田村が防御の裏に出た直後に迷わず右前方へグラバーキックを転がし、そこにフィフィタがしっかりと反応してトライに結び付けている。
これらのプレーを見ると、従来通りスピードと速い展開でトライを奪っているとも見受けられるが、アイルランド戦で強く印象付けられたのが、横軸と縦軸を重視したゲームスタイルだ。
グラウンドをタッチラインと並行の縦軸、ゴールラインと並行の横軸で捉えると、ジャパンのやろうとした事が明白になる。
基本的な考え方は、1本の縦軸の線上でボールを動かさずに、常に横へとボールを移動させ続けること。そのために必要なのがパス、ステップ、キックなどのスキルだ。そのスキルを駆使してボールを止めることなく刻々と横軸、つまり左右へと動かすことで、相手防御に的を絞らせず、その強い縦への圧力をフルパワーで使わせないのが、日本の基本的なボールの動かし方、ゲームの運び方だ。
よりフィジカルの強いチームであれば、縦軸をそのまま一直線でボールを前に運べば、トライまでの最短距離になる。だが、フィジカルでは、まだトップ8級のチームに分がある日本は、このような縦軸を基本としたラグビーは考えていない。日本代表で、このような縦軸のアタックができるフィジカルを持っているのは、NO8アマナキ・レレイ・マフィ(キヤノン)、そして今回の遠征でも縦の強さをアピールしたテビタ・タタフ(サントリー)の2人だけだろう。先に挙げた2つのトライも、1本の縦軸にボールを停滞させずに、常に横軸を動かせ続けて奪ったものだ。
この横軸のラグビーを考える上で、アイルランド戦で収穫の1つと考えられるのが、オフロードパスの数値だ。19年の対戦は諸々のデータが算出されているが、日本のオフロードパスの回数は4ないし7だった。しかし今回の対戦では10に伸びているのだ。オフロードパスは、いまやトレンドではなくなりつつあるスキルとも一部では考えられているが、日本代表が23年W杯へ向けて、さらなる横軸を意識した戦術を構築する上では、その回数、精度アップは重要なファクターの1つになるだろう。
ボールを縦軸に停滞させないスタイルは、アイルランド戦の初トライとなった前半11分のドライビングモールでも見ることができる。相手反則による敵陣22メートルライン内でのラインアウトからモールを押し込んだプレーだが、モール形成から間髪を入れずに選手全員が同じ右前方に脚を細かく動かしている。ドライビングモールの鉄則のようなプレーではあるが、モールを縦のラインではなく横方向に動かし続ける意識が徹底されているのが日本の顕著な特色だ。この移動により、相手防御をモールの核となる部分にしっかりとヒット、ホールドさせない効果がある。言い換えると“芯を食わせない”モールを組んでいた。この短期間で、このようなモールを作り上げたことは感心させられる。