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世界一過酷なヨットレースを完走 最強のチームを作った白石康次郎の“モテモテ理論”

53歳の海洋冒険家・白石康次郎(DMG MORI SALING TEAM)が2021年2月11日、フランス西部レサーブルドロンヌから単独無寄港無補給で世界を一周するヨットレース「バンデ・グローブ」でアジア勢初の完走者となった。33チーム中の16位。数字は平凡に思うかもしれないが、約3か月間、たった1人で港にも寄らず地球が織りなす大自然と向き合う。大波、嵐、無風、氷山、鯨……。生死をかけたレース。ゴールした者は宇宙に飛び出した人数より少ないとも言われ、フランスではヒーローとして称賛される。

過酷なレースで完走し船上で笑顔を浮かべる白石【写真:DMG MORI SAILING TEAM提供】
過酷なレースで完走し船上で笑顔を浮かべる白石【写真:DMG MORI SAILING TEAM提供】

3か月間1人で大自然と向き合う「バンデ・グローブ」でアジア勢初の完走

 53歳の海洋冒険家・白石康次郎(DMG MORI SALING TEAM)が2021年2月11日、フランス西部レサーブルドロンヌから単独無寄港無補給で世界を一周するヨットレース「バンデ・グローブ」でアジア勢初の完走者となった。33チーム中の16位。数字は平凡に思うかもしれないが、約3か月間、たった1人で港にも寄らず地球が織りなす大自然と向き合う。大波、嵐、無風、氷山、鯨……。生死をかけたレース。ゴールした者は宇宙に飛び出した人数より少ないとも言われ、フランスではヒーローとして称賛される。

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 94日21時間32分56秒。単独ではあるが、孤独ではなかった。フランス人を中心に多国籍となる15人のチームが24時間体制で支え、序盤に起きた絶体絶命のピンチも乗り越えた。アジア勢初となる完走を陸から支えた組織は、「バカを貫く」というサムライセーラー独自の「モテモテ」理論から生まれた。

 白石は大西洋上から天に向かって両拳を突き上げてゴールラインを切った。大きな傷を負いながらも耐えに耐えた船をいたわるかのように優しくなでた。アジア勢初の完走を達成したときには「何も考えられなかった」。しかし、顔を上げて周囲を見渡すと、陸からボートに乗って祝福に駆けつけた仲間の顔が次々と目に入る。胸の奥から自然と感謝の思いがわき出てきた。

「信頼する仲間の顔が見られてうれしかった」

 1994年にヨットによる単独無寄港無補給世界一周を史上最年少記録26歳(当時)で樹立。それから27年――。一人で挑戦した海の冒険は33チームでスピードを競うレースに変わった。世界を4周もした53歳は「自分は下手。センスがない」と迷いなく言う。謙遜でも、卑屈でもない。本音の声。そんなサムライセーラーがたどり着いた組織論とは――。白石らしいクスッと笑える例え話で教えてくれた。

「例えば、女にモテようと思った時に、モテない男同士が居酒屋で話し合っても駄目なんだよね。傷をなめ合っても何も前に進まない。じゃあどうする? 自分ならモテようと思ったら女性に聞きに行くよね。女の人に『どういう人が好きなの?』ってね。最低限、モテる男に聞きに行く。幸せになりたかったら、幸せな人に聞かないといけない。だからね、自分のチームは自分より優秀な人しか入れない。自分が優秀じゃないから。そうやって成功するのだと思う」

スタッフとゴールを祝福【写真:DMG MORI SAILING TEAM提供】
スタッフとゴールを祝福【写真:DMG MORI SAILING TEAM提供】

 時計の針をスタート直後に戻そう。レース6日目となる昨年の11月14日に悲劇は起きた。大西洋沖で40ノット(秒速20.6メートル)の暴風雨と遭遇し、自動操縦(ハンドル)が制御不能となった。「車でいえば大スピンした状態」と白石。推進力の源となるメインセールが裂けた。サブセールは無事だったものの、ヨットの動力は風だけ。いきなりの“エンジントラブル”に見舞われた。帆に空いた約2メートルの裂け目は、悪魔のビームのように太陽光を通し、突き刺してくる。「もうめちゃくちゃな状態。こんなになるとは思わなかった。正直、リタイアも考えたし、世界一周は無理だと思った」。だが、フランスに待機する陸上チームから「撤退」の一言は一度も発せられなかった。

 設計、配電、ロープ(100本以上ある)、フォイル(船の両側に突き出る翼)のそれぞれの担当者が、どう“大手術”するかで議論が始まる。問題はテニスコートと同じ面積という巨大なメインセールをどう下ろして、修理するか。一刻を争う中、フランス、イタリア、アイルランド、日本の多国籍チームはレースを続行するための道を必死で探った。

「これならどうだ」、「いや駄目だ。電気系統がやられる」、「じゃあどうする」。白熱した24時間の“朝まで生討論”をへて導かれた答えは、船底の床をはがして凹凸のある甲板に平面な作業台をつくり、そこで帆の裂け目を修理する。方針は固まったが……。

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