最後のマラソン五輪女王・野口みずきの今 陸上界のスマホ世代に「欠如」を感じること
「THE ANSWER」は各スポーツ界を代表するアスリート、指導者らを「スペシャリスト」とし、第一線を知る立場だからこその視点で様々なスポーツ界の話題を語る連載「THE ANSWER スペシャリスト論」をスタート。2004年アテネ五輪女子マラソン金メダリストの野口みずきさんが「THE ANSWER」スペシャリストの一人を務め、陸上界の話題を定期連載で発信する。
「THE ANSWER スペシャリスト論」女子マラソン・野口みずきさん
「THE ANSWER」は各スポーツ界を代表するアスリート、指導者らを「スペシャリスト」とし、第一線を知る立場だからこその視点で様々なスポーツ界の話題を語る連載「THE ANSWER スペシャリスト論」をスタート。2004年アテネ五輪女子マラソン金メダリストの野口みずきさんが「THE ANSWER」スペシャリストの一人を務め、陸上界の話題を定期連載で発信する。
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今回は「野口みずきの今」。今もなお破られていない日本記録2時間19分12秒など輝かしい実績を残し、16年4月に現役引退を表明。現在は岩谷産業陸上競技部のアドバイザーを務める傍ら、ランニング教室やトークショーなどで走る魅力を伝えている。東京五輪が迫る中、世界の頂点を極めた42歳のランナーは今、どんな活動にやりがいを見出しているのか聞いた。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
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アテネを駆け抜けた金メダリストは今、後輩たちの練習をサポートしている。野口さんの肩書きは「岩谷産業陸上競技部アドバイザー」だ。現役時代に約20年間指導を受けてきた廣瀬永和氏が監督を務め、2017年に発足した比較的新しいチーム。恩師からオファーを受け、19年1月から週に2、3回、一回り以上年下の選手を見守っている。
「時間に余裕がある時に自分の経験に基づいてアドバイスをしたり、練習が軽い日は一緒に走ってコミュニケーションをとったりしています。指導者というより、選手に近いお姉さん的存在ですね」
タイミングがあえばチームの合宿にも参加する。「私は自己分析する方で、あまり指導は向いていない」と、あくまでアドバイザー。「指導者」とは線引きし、監督・コーチと選手の橋渡し役になれるよう寄り添っている。偉大な先輩に現役選手は遠慮がちな部分もあるそうだが、野口さんから声掛け。距離を縮められるように努めているという。
トップ選手たちの成長に携わる中、思うことがある。バルセロナ五輪で銀メダル、アトランタ五輪で銅メダルの有森裕子さん、シドニー五輪金メダルの高橋尚子さんに続き、野口さんは日本人4大会連続のメダル獲得者。以来3大会、日本人は入賞者すらいない。
150センチの小さな体で世界と戦った野口さんは「少し(世代間の)ギャップを感じます」と丁寧に言葉を並べた。
「やはり2000年代に活躍していた選手は根性論というか、足が少々痛くてもなんとか努力して、セルフケアなどもして乗り越えていました。きつくても頑張れる。そうすると、意外と痛みも消えて走れることもあったんです。でも、なかなか最近の選手はそういう発想や、しっかり情報を得てセルフケアをしようという姿勢が少し欠如しているのかなと。
今は手元のスマートホンで知りたい情報は簡単に取り入れられる時代。そういったことを陸上ではなく、オシャレや趣味など別のことに使っていることが多いような気がします。やはり今は陸上でお金をいただいているので、そういうことも陸上で自分のプラスになるようにやってほしいですね」