今季のラグビー日本代表戦中止 “失われた1年”が2023年W杯にどう影響するのか
通常なら6、7月にテストマッチ開催も…来年のことは誰にもわからない
このような決断の背景には、日本代表ならではの特殊性もあった。
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昨秋のW杯スコッド31人を見ると、日本代表は7か国で生まれた選手たちが集まって編成された多国籍軍だ。スタッフもニュージーランド(NZ)人のジョセフHCをはじめ、コーチ、スタッフの多くが指揮官と同郷か、日本以外の国から集まってきた。そのため、コロナ禍の中で、他の強豪国よりも選手、スタッフが日本や母国の出入国で制約を受け、チームとして集まることが難しい状況に陥った。W杯開催中は“ダイバーシティー(多様性)”ともてはやされた多国籍ジャパンだったが、国境が感染予防のための防波堤となる中で、思わぬ困難に見舞われることになった。
では、この1年の代表戦見送りという判断とコロナ感染が収束できない現実が、今後の日本代表の活動、強化にどのような影響を及ぼすのだろうか。
前提として、感染収束の見通しが立たないという深刻な事態がある。ジョセフHCも「コロナ禍により様々なことが日々変わっていく中で、コーチとしてはプランニングが非常に難しい。通常なら6、7月にテストマッチがあるはずだが、来年のことを考えると相手がどこになるのか、本当に出来るのかは見えない」と苦悩を語ったように、来年代表戦が行われるのか、今季のように見送られるのかは、誰にもわからない。
このような状況の中で、当然のことだが、この1年の中断が日本にもたらすデメリットは明らかだ。昨年のW杯でベスト8入りした国々や、決勝トーナメント進出を逃した強豪が10月からの代表戦再開を準備する中で、日本代表だけが強化に着手出来ず、世界から取り残された状態に陥っている。強化の中でもとりわけ重要な課題は、次回W杯へ向けて選手層の厚みをつけることだ。これについては、4月にアップした2本のコラムでも指摘してきた。チームに厚みを持たせるために欠かせないのが若手の発掘と育成なのだが、W杯明けのシーズンが白紙になってしまったことで、事態は深刻さを増している。
ジョセフHCは会見で「今年に関してはポジティブな点もあると思います。選手が昨年のW杯までタイトで忙しい日々を過ごしていた中で、一息入れる時間ができたということです」とメリットも語っているが、これは試合が中止にならなくてもベテラン選手には適用されていた処遇のはずだ。実際に同HCは、2019年W杯へ向けても選手の状態を入念にチェックし、適度な休養期間を与えながら本番で最高のコンディションを引き出している。ポジティブファクターとしてはやや無理があるが、コーチとして自分たちが対処できない問題を嘆くよりも、チームを前向きに進めていくことが重要だという思いは十分に理解できる。
それ以上に強く印象づけられたのは、指揮官の「まだ強化には十分時間がある」というコメントだった。敢えてポジティブな発言をしていると考えるのは容易だが、信憑性も少なからず孕んでいる。
今回の代表戦中止の決定を踏まえて、危機感を煽る報道が多いのは不思議なことではない。だが、忘れてはいけないのは、代表チームは24時間練習をしているわけではないということだ。残された3年という期間で、チームがどれだけの時間を強化に費やすことが出来るかが重要だ。
そこで、再び日本の特殊性が浮上してくる。日本だけがアマチュア、つまり企業スポーツだという現実だ。昨秋のW杯で8強入りを果たした国(地域)の中で、プロリーグを持たないのは日本だけだ。多くの日本代表選手がプレーするトップリーグ(TL)は、大半の外国人選手と代表クラスなど一部の日本人選手がプロ契約を結んでいるが、半数以上は社員選手としてプレーしている。そしてチーム自体も、入場料収入などではなく、企業の福利厚生費や広告費などを運営費として活動を続けている。
このような企業スポーツという形態が代表チームの強化にどのような影響を及ぼすのかは、過去のW杯へ向けた強化や、選手の代表招集を振り返れば見えてくる。
イングランドやフランスなど世界でもトップレベルのプロリーグを持っている国では、代表(協会)VS所属クラブという対立、摩擦が少なくない。高額なサラリーを払うクラブは、商品価値の高い選手がチームでプレーしないことが収益面も含めてマイナス要素になると考えている。そのため、合宿や遠征など選手が代表に拘束される期間には神経を尖らせることになる。一部の強豪国で協会が選手と契約を結んでいるのも、クラブ側の選手に対する縛りが反映された措置という側面を持つ。