強豪校で丸刈り断固拒否 レスリング界の“異端児”高谷惣亮が部活に求める「多様性」
部活に求める多様性「競技に全てを捧げたらいいということではない」
苦しい練習を乗り越えるのに必要なモチベーション。髪を伸ばす理由は、高谷なりにしっかりと理に適っていた。「部活=髪を伸ばしてはいけない」という昔からある考え方には、「僕はもっと多様性があればいいと思うんですよね。髪を伸ばしても一生懸命練習している子は練習しているし、丸刈りでも練習しない子は練習しないので」と持論がある。
やることさえやっていれば、“オシャレにかまけて競技に集中していない”なんて言葉はナンセンス。自由であるからこそ、「考える力」が育まれるのだろう。髪形も、女子の化粧も「レスリング以外の学びがある。レスリングに全てを捧げたらいいということではないと思う」と、部活に「多様性」を求める。最近のレスリング部では、丸刈りの“慣例”もなくなりつつあるそうで「僕は凄くいい傾向だなと思っています」と話した。
ただし、これらは高谷による一つの持論に過ぎない。“髪をいじる時間があるなら練習する”という自身と反対の考え方にも「完全に人それぞれですね」と肯定的だ。部活動においても、好きで丸刈りにしたければすればいいと思っている。
そして、強ければいい、何でも自由にやっていいというわけではないという。ルールを守る大切さ、必要性をわきまえている。普段は母校の拓殖大で練習しながら、コーチとして後輩たちを指導。各集団内で定められたルールに従う姿勢は、学生時代から他の選手と変わらない。
「どこの部や高校にもルールがある。ルールは守らないとダメだと思います。例えば、毎日午後4時から練習が始まるとして、『僕は英会話の時間が4時からやりたいから、部活の練習には参加しません』って。(勉強が)悪いわけではなく、時間を変更できないのかと。3時から勉強して練習に参加できないのかという試行錯誤はすべき。勝手な自分ルールを決めるのはよくない」
練習内容や髪形でも、納得いかなければ主張した学生時代。強気な発言によって責任が大きくなり、「自分がこう言うからには勝たなあかんっていう思いはありました」とモチベーションにもなった。高校では選抜、国体、インターハイを制し、3年時にはシニアの全日本選手権で準優勝している。反抗的にも見える「生意気野郎」の背景には、自信と努力が存在した。
試行錯誤を続け、磨かれた「考える力」は大人になっても役に立った。2018年春から通った筑波大大学院では「なぜ日本の中重量級は世界で勝てないのか」を研究。他人と意見交換をすることで「もっと話を聞きたいから今度メシでも行こう」と、他競技やスポーツ以外の分野でも交友関係が広がった。「自分の考える力とか、いろんなものを取り込んでいこうとする姿勢は役に立ったと思います」と明かす。
高校生とのオンライン授業では、トレーニング、栄養、緊張、モチベーションなど、多岐にわたって具体的な話を展開。専門的な知識を授けた。どれも専門分野のプロフェッショナルに話を聞き、自ら考えたことで血となり、肉となったものだ。
これから未来を切り拓いていく高校生へ。流れる前髪がトレードマークのレスラーは、こんな願いを胸に秘めている。
「いろいろ話をしたけど、必ずしも僕が言った意見が正解ではなくて、自分にとっての正解を出すための灯りみたいなものだと思う。聞いた情報を噛み砕いて、自分の考えにできるようになっていけばいいなって思います。自分一人で解決ってなかなかできないんですよね。自分の中でいろんな考えがあっても、それが正しいかどうかは絶対にわからない。
だから、いろんな人たちと話をしたらいい。自分の意見を言って、周りの人たちのいろいろな考えを聞いた上で、自分がどういった答えを出すのか。“考えを巡らせる”ということをしっかりしてほしいと思います」
なぜ、この練習をするのか。なぜ、これを食べるのか。なぜ、髪を切らなきゃいけないのか。押しつけるのではなく、何が大切なことなのか。選手だけでなく、指導者である大人にも求められる「考える力」。何事も自分の頭を使って動くことが大切なのだろう。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)