総工費35億円の複合施設 パナソニックの熊谷移転が示す新たなチームの“在り方”
熊谷ラグビー場をレガシーとして後世にどう伝えていくか
熊谷ラグビー場は1991年に埼玉県が建設した競技場で、熊谷市も運営に参画する公共施設だ。ラグビー専用で設計されたためピッチとスタンドが近く、生身の肉体の激突が醍醐味のラグビー観戦には最適のスタジアムの1つでもある。「熊谷スポーツ文化公園」と呼ばれる競技場一帯は、およそ90万平方メートルの広大な敷地に陸上競技場、野球場、ドーム型体育館、自然公園などが点在して、ラグビー場も3面ある。今回の新施設は、公園内の多目的広場として使われてきたエリアに建設されることになる。県民・市民の税金が使われていることを考えると異例の事業だが、熊谷市長でもある富岡清・埼玉県ラグビー協会会長は、こう説明する。
【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら
「昨年のこの会場(熊谷ラグビー場)で行われたW杯の大成功を、いかに次のレガシーとして残して、後世に伝えていくかが大きな課題だった。そのためには、やはり協力をしなくてはいけないのは、このスタジアムの所有者である埼玉県であり、地元の熊谷市であり、W杯招致の段階から頑張ってきた県協会だと思っています。こういう企業と自治体が連携するというのは難しい事例もあるかと思いますが、埼玉県が本当に大きな考えを持って英断をしてくれたということが一番大きなところかなと感じています」
W杯開催に伴い124億円を投じて同ラグビー場が改修される時点で、今後の施設の活用方法には自治体やラグビー関係者の中でも様々な議論が行われてきた。多くの関係者が重視したのは、この改修が税金の無駄遣いに終わらないことだった。洋の東西を問わず、大きな国際大会などが行われると巨額を投じて建設された施設が大会後は無用の長物になる事態は少なくない。当初は“コンパクトな運営“と謳われた来夏の東京オリンピックでも、同じような問題は指摘されている。熊谷ラグビー場も、W杯後も有効に、しかも収益面でも税金だけに依存しない運営を模索して辿り着いたのが、パナソニックとの産官共同による運営形態だった。
管理棟、クラブハウスなどの建物はパナソニックらによる運営になるが、グラウンドの所有者は自治体に残している。チームの飯島均GMは「われわれはあまり練習するチームじゃないので」と笑わせたが、チームが使用しない時間は市民らも利用できるため、高校生の練習や合宿などにも貸し出される。熊谷にグラウンドを持つ立正大を拠点にする7人制女子の強豪クラブ・アルカス熊谷の社会人選手の練習施設としても活用される。
太田市内に芝2面のグラウンドを持つパナソニックだが、熊谷では建設予定地横の空き地にもう一面の公共グラウンドが建設予定のため、自治体との協議でサブグラウンドとして使用できる方向だ。
では、企業側はどのような判断で、異例の提携による移転を推進したのだろうか。
新リーグ開幕へ向けてチーム運営を司るパナソニック・企業スポーツセンターの久保田剛所長はこのように語っている。
「35年という長きに渡るお約束になりますが、スポーツ事業というのは地域にしっかり根差していかなければいけない前提がありますし、今後は企業スポーツとはいえども、新リーグの構想に入っているように、しっかりと事業機能を持つことが必要です。これまでの企業スポーツといわゆるプロスポーツのハイブリッド型のような形で、地域の皆さんと共に50年、100年を目指していくことを考えれば、必然的にこのような流れ、契約になるのかと思います。素晴らしいスタジアムの隣接地で、試合日はもとより、このような環境の中で練習でき、試合日以外にも地域の皆さんと交流できることは非常に大きなメリットだと思います」