福岡堅樹の離脱を嘆く時間はない 東京五輪まで1年、セブンズ代表が抱える課題とは
福岡を大きく成長させた7人制での経験
“走り屋”のイメージが強い福岡だが、7人制の経験値は決して高くはない。以前に「高校では本格的にやる機会はなかった」と自ら語っているように、福岡高時代は“お遊び”程度の経験しかなく、筑波大進学後も15人制中心の活動が続く中で、2年生だった2013年からは15人制日本代表でのワールドカップへの挑戦が始まった。
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当時15人制代表を率いていたエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)は、強化のための時間や、選手のコンディションなどを理由に7人制との兼務には否定的だった。しかし、他のポジション以上にスピードと相手を抜くためのスキルが重要なWTBについては7人制挑戦を容認して、福岡の五輪へ向けた挑戦が実現。リオデジャネイロ五輪での4位という快挙を、異次元の快足で後押しした。
福岡自身は7人制での経験を「プレー選択の幅も広がりましたし、自分にとってはもともと苦手だったスプリントを何度も繰り返す力というのも、7人制の中できついトレーニングの中で培うことができました。そういう意味では7人制での経験で、自分自身のプレーというのは大きく成長できたと思っています。WTBに限らず7人制を経験することは15人制にも大きく、新しい幅を広げるようなチャンスがあると思っています」と15人制でのパフォーマンスにも大きく影響したことを認めている。
典型的なスプリンターだった福岡にとって最大の弱点は、長距離走や、トップスピードを何度も繰り返すインターバル走で必要なスタミナだった。従来のWTBなら短距離走のような短時間のスピードだけでも戦えたが、ジェイミー・ジョセフHC就任後は、相手へのプレッシャーとキック処理などで頻繁に前後に動く運動量がWTBにも求められた。15人制代表入りした当時は、トップレベルで1試合を走り切れる体力はなかったが、7人制でのトレーニングと実戦が福岡をタフなアスリートに鍛えたのだ。
7人制プレーヤーとしての福岡の武器は、15人制とも共通している。静止した状態や低速域から一気にシフトを上げる加速力だ。福岡自身も会見で「今のセブンズ日本代表でも、松井千士選手なんかはトップスピードでは僕よりも速い」と話しているように、国内外に50、100メートルのスプリントなら福岡を上回る快足選手もいる。
しかし、この初速から一気にトップスピードに入る加速力には、世界のトップ選手でもついていけないのだ。昨秋のワールドカップでは松島幸太朗とともに“ダブル・フェラーリ”と呼ばれたが、福岡の走りのメカニズムを目の当たりにすると、レースカーのようなハイパワーのエンジンを積むスーパーカーよりも、排気量は小さくとも軽量のボディーを駆るロータスのライトウェートスポーツカーという印象だ。
今年2月から7人制代表に再合流した福岡だったが、直後に新型コロナ問題が発生したため東京五輪へ向けた戦力になる前に今回の離脱が決まったことになる。代表チームにとっては、戦力ダウンというよりも、期待された戦力の上乗せが出来なかったというのが適切かも知れない。
そして、福岡の離脱が正式に決まったことで、男子7人制日本代表は世界レベルのフィニッシャーを2人得ることができなくなった。福岡と共にワールドカップを盛り上げた松島が、フランスの強豪クレルモン・オーヴェルニュでのプレーを優先して、東京五輪への挑戦を事実上断念しているからだ。この2人の持つ決定力、個人技、そしてワールドカップでも証明したフィジカルの強さは、7人制日本代表にとっても大きな損失なのは明らかだ。
だが、福岡、松島タイプの選手はいないとしても、世界の舞台でも通用する可能性を持つスピードスターは皆無ではない。福岡自身も会見で名前を挙げた松井千士(サントリー)は50mを5秒7で駆け抜けるスプリンターだ。常翔学園高―同志社大―サントリーと常に強豪チームに属し、シャープな走りでエースに君臨。15人制代表でも将来性を期待されている。