「『強い』だけじゃ片付けられない」 中野友加里が感じるアスリート羽生結弦の凄み
「あっさり見られる」演技が凄いワケ「羽生選手の演技が一つの作品に…」
25歳。今後注目されるのは、22年北京五輪の3連覇と前人未踏の4回転アクセル挑戦だ。
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今シーズン、GPシリーズ連勝で挑んだGPファイナルは世界選手権2連覇のネイサン・チェン(米国)が優勝し、2位に。全日本選手権2位を経て、2月の4大陸選手権ではSP世界最高得点を叩き出すなどして初優勝。勢いに乗り、3年ぶりとなる優勝を目指した3月の世界選手権だったが、新型コロナウイルスの影響により、中止に。予期せぬ形で2019-20年シーズンは幕を下ろす形となった。
今後について、中野さんは「進化し続けると思う」と伸びしろを強調し、4回転アクセルも可能性を否定しない。
「羽生選手が4回転アクセルを跳びたいと公言している以上、挑戦を見守りたいし、彼ならば可能性はあると思います。一方で、4回転アクセルがなくても彼本来の表現力、技術力が100%発揮されれば、敵なしかなとも思います。今、学校の道徳の教科書に載るくらい、後世に残る選手。4回転アクセルを跳ぶ、跳ばないに関わらず、語り継がれていくし、ここで止まる羽生選手でもないと思います」
初めてフィギュアを見たライトなファンにとっては「なんとなく凄そうだけど、技術的にどんなところが凄いか分からない」ということもある。しかし、中野さんは「実は、まさにその感覚こそが彼の凄さを表現するものなんです」と持論を説いた。
「普通の選手であれば、ファンの方は『あ、ジャンプ跳んだ。スピンやった、ステップやった』と一つ一つの要素が独立し、切り離されたものとして、演技を見てしまうこともあります。しかし、羽生選手の場合は演技が一つのパッケージ、作品としてまとまっているので、どのジャンプもスピンも構成の一部かのようにこなしてしまう。だから、初めて見る方はあっさりと見られる。
だけど、初めて見た人が『あっさり見られる』は、実は凄いことであり、奥が深いこと。音楽に選手が合わせて踊るけど、彼の場合は羽生選手がいて、音楽が後からついてくる。羽生選手のための音楽として存在している感じ。それこそ一つの作品となり、パッケージ化されたプログラム。そこが素晴らしいと思うし、その視点で見るとよりフィギュアスケートを楽しめると思います」
難しいことをなんとかこなすのではなく、難しいことをいとも簡単に見せてしまうこと。それは一流の証しであり、フィギュアスケート選手という枠を超え、アスリートとして優れた資質でもある。中野さんが「彼はフィギュアスケーターというか『羽生結弦』なんですよね。羽生結弦として、生きている感じがします」と表現した言葉に、この男の本質が表れているのかもしれない。
“芸術の表現者”としての価値がすべてじゃない。本物のフィギュアスケート選手であり、本物のアスリート。羽生結弦という孤高の才能は、氷の上に照らされ、眩い輝きを放ち続ける。
(終わり)
(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)