サンウルブズは存続させるべし ベテラン記者が模索する生き残るための“裏技”とは
新しいファン層の開拓にも貢献
SR参戦による飛躍的な変化は、グラウンドの外でも起きていた。
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サンウルブズの試合会場で驚かされるのは、従来の国内の試合では見られなかった客層のファンが大挙してスタジアムに集まったことだった。従来のラグビー場のスタンドは黒や灰色のイメージだった。学生時代に選手だった高齢のファンが多く、着ている服が紺や黒、灰色だったからだ。
しかし、サンウルブズの試合では、スタンドはチームカラーのオレンジ色に近い赤や原色に塗り替えられた。20代、30代のファンも多く、家族連れも少なくなかった。しかめっ面のオールドファンは笑顔の若者たちにとって代わり、スタジアムに向かう人混みは、勝ち負けだけにこだわるのではなく試合を楽しもうという和やかな雰囲気に包まれていた。その姿は、まるで音楽フェスに参加する人たちのようだった。
この客層の変化は、20年以上ラグビー場を職場としてきた記者にとっても驚きであり、スタジアム周辺の雰囲気は、日本国内というよりもブリスベンやエジンバラに近いものだった。新しい時代のファンの姿、応援の形を印象付けられた。
中止までの今季のサンウルブズの成績は1勝5敗。5シーズンの通算でも10勝1分け58敗と決して褒められたものではなかった。しかし、今年の国内開催2試合をみても1試合平均で1万4567人の集客を記録している。もちろんW杯景気も手助けはしているはずだが、昨季までも1万人台の観衆を集めていたことは、チケットセールスの奮闘と同時にチーム、選手への勝敗度外視の応援なくては実現できなかった数字だろう。日本ラグビーがこれから新しいステージに進むためには、このファン層を手放すわけにはいかないはずだ。
今月10日の日本協会理事会後に取材に応じた岩渕健輔専務理事も、今後について「サンウルブズが果たしてきた役割は非常に重要ですし、大切にどうするべきかは理事会でも世界のカレンダー、状況を考えながら、議論をすることにしています」と存続への意志を示した。現時点で具体的な対策が語られなかったこと、コメントの中で「いままでで言うところのサンウルブズのような存在」という言い回しは気がかりなところだが、強化とファンの開拓で日本ラグビーに貢献してきたチームを“自然消滅”させるようではラグビー協会が大きな損失を被ることになるのは明らかだ。
SRを運営するSANZAARがサンウルブズのSR除外を正式に発表したのは2019年3月だった。JSRAからは、サンウルブズ以外のチームが日本という遠隔地で試合を行うことの負担が理由だと説明された。これは長距離移動に伴う選手、スタッフの体力面での負担と、移動に伴う経費、放映権料などの問題も含まれているという。個人的にはSANZAARの中にサンウルブズ不要論が高まっていたのだろうと感じていた。
では、なぜ南半球に拠点を置くSRが地球の裏側のチームをリーグに迎え入れたのか。
日本でのラグビーの強化、普及への協力と共に、ここにも“金”が横たわっている。SANZAARを構成する南半球4か国は、誰もが認めるラグビー先進国だ。しかし、北半球の強豪国に比べると経済面では決して順風ではない。欧米のような巨大な資本を持つ世界規模の企業が少なく、SR自体も放映権料と南半球各国のローカル企業がスポンサーの多くを占めている。
フランスやイングランドでラグビーを支えてきたプジョーやロイヤル・バンク・オブ・スコットランドのような世界規模の大企業の支援は望めないのが実情だ。巨大な資本獲得のためにグローバル化して市場を世界に広げたいSANZAARにとっては、日本を取り込むことでトヨタ自動車、キヤノンのような世界的な企業をリーグに巻き込むことに大きな魅力があったはずだ。
しかし実際にサンウルブズを迎え入れても、望んだほどの巨額な“世界マネー”の流入はなく、サンウルブズ自体も結果を出せずにきた。そのためSANZAAR内で、サンウルブズ参入時に決められていた5シーズンという契約期間を延長してまで残留を求める声は上がらなかった。
SANZAARはJSRAに対して残留の条件も提示している。南半球勢が日本遠征に伴う諸費用や、テレビ放映権料の減少額として10億円ともいわれる支払いだ。だが、この法外な金額を聞いたときに感じたのは、すでにSANZAAR側ではサンウルブズの除外が前提で話が進められているだろうというシナリオだ。この金額は赤字決算が続くJSRAには支払いは不可能であり、日本協会でも高騰する強化費などを考えれば困難なものだ。SANZAARが、日本には支払えないことも承知で要請してきたと額だと考えても不思議ではない。