【今、伝えたいこと】無収入の選手、試合勘との戦い 藤井かすみが明かす「女子ゴルフ界の本当の苦しさ」
年間経費は「切りつめても1000万円くらい」、選手は試合勘を失う
移動、宿泊、キャディー、大会へのエントリー費、オフシーズンの合宿など、全国を転戦するプロたちには経費がかかる。多くの選手が火曜から試合会場で練習を始め、4日間大会なら木曜に、3日間大会なら金曜に開幕、日曜が最終日となる。決勝ラウンドに進まなければ賞金はゼロだ。毎週のように繰り広げられる生き残りを懸けた戦い。必要となる経費は安くはない。
「全試合に出場すると、切りつめても1000万円くらいはかかると思います。コースのキャディーさんにお願いしたとしても、1日1万円から1万5000円くらいは必要です。練習日を含め、ゴルフをする経費だけでも1週間で10万円くらいはしますね。あとは移動、宿泊、体のメンテナンスを含めると、1週間20万円で収まるかどうか。帯同キャディーのいる選手はもっとかかります」
金銭的な影響でゴルフができなくなってしまう選手もいるかもしれない。藤井は「この状況が続くと他の仕事もなくなってしまうので、可能性はありますね」と危惧した。ツアーが開幕できていないことで、チャンスを失った選手も多くいる。
レギュラーツアーのシード権(出場権)を持たない選手は、前年の最終予選会で30位程度に入れば、翌年レギュラーツアーの前半戦に優先的に出場できる権利が与えられる。最終予選会で30位前後には届かなかった選手たちは、シーズン途中に賞金額で出場優先順位を見直す「リランキング」で後半戦の出場を狙うことになる。
だが、7月23~26日の「大東建託・いい部屋ネットレディス」後に行われるはずだった今年の第1回リランキングは、ツアーが開幕できないため実施しないと発表された。これにより、藤井は「昨年末(の最終予選会)に失敗してしまった選手たちのチャンスが凄く減った。逆に最終予選会でよかった選手たちはシード選手と同じ条件で戦える」と説明。今季前半に実力をつけ、後半戦からレギュラーツアーで戦うことを目標としていた選手は、国内最高峰の舞台で戦うことができなくなった。
高額の賞金を稼ぎ、多くのスポンサーがいてくれることで生活に比較的不安のない選手にもツアーの開幕延期は大きい。影響するのは“試合勘”だ。何百人、何千人のギャラリーに見守られながら、1打で賞金が数百万円も変わってしまうプロツアー。いくら練習できたとしても、緊張感のある試合から離れることで弊害が生まれてしまう。
「ゴルファーにも試合勘は凄くあります。試合から離れていると、なんでもない1打をポンと打ってしまうこともある。でも、試合に出ているとそういう無駄なこと、もったいないことをしないと思います。やはり見られていると変なことはできない。見られることは凄く大事かもしれないですね」
だからこそ、今後のゴルファー人生を左右するのは今の過ごし方だ。拠点の練習場が使える選手とそうではない選手もいる。それでも、部屋の中でできるトレーニング、素振り、パット、アプローチなど「できることを見つけて、どれだけ自分でできるかが凄く大事」と説く。いつ開幕するか見通しの立たないのが現状だが、“開幕ダッシュ”できる選手についてこう続けた。
「今は他の選手の様子がわからないので、『できないからいいや』『できるまで待とう』と思ってさぼっていると、やっている選手とやっていない選手の差が凄く開くと思います。今すぐに開幕しても大丈夫と言えるくらい準備ができている選手が上にくる。どこにいても、どんな状況でもできる選手が上に上がってきます。今のこの状況をチャンスと思って捉えている選手がやはり強いでしょうね」