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「上手いだけの選手」では世界で輝けない 日本の子供に学んでほしい「多様性」を尊重する感覚

閉鎖的な図式はインターナショナルな世界では通用しない

「ダイバーシティ&インクルージョン」は多様な人材を受け入れ、認め合い、その能力を発揮させていくことを意味する言葉だが、こうした考え方はヨーロッパのサッカー界に深く浸透している。人種も民族も宗教も異なるメンバーが、お互いの“違い”を受け入れ、尊重し合いながら戦っていく。自分とは異なるバックグラウンドを持った人を否定するのではなく、それぞれが実力を発揮できる環境を作り上げることは、今や結果を残すチームの絶対条件となっている。監督の価値観を押しつけ、型にはめるようなチームは上手くいかない時代だ。

 日本はヨーロッパに比べると、歴史的に見てこうした意識は希薄だ。スポーツ界においても、いまだに監督による苛烈なトップダウンの指導や勝利至上主義、経歴重視の人材登用が根強い部分とも関係しているのだろう。

 気をつけなくてはいけないのは、多様性を認めない一定数の人たちが組織内でマジョリティー(多数派)になった時。自分たちが無意識のうちにマイノリティー(少数派)の人を傷つけたり、排除していることにすら気づかないことが多い。

 例えば小学生年代のチームでは、どうしても技術的に優れるレギュラーの選手がマジョリティーとなる構図になりがちだ。そこで指導者が一緒になって、レギュラー以外の選手を全く相手にしないようなチーム作りをしてしまうと、それが社会だと子供たちが学ぶことになってしまう。マジョリティーさえ取れれば、自分の好きなことができる世の中なんだ、と。

 一方でヨーロッパの子供たちは、小さい頃から多様性に触れる環境が学校でも日常生活でも整っている。同じ国で生まれながら、肌の色や宗教、価値観が異なる他者と共生するために、ごく自然にたくさんの“物差し”を自分の中に持つこととなる。

 上手い選手の言動がルール、結果を残す指導者のやり方が正しい、強豪チームが競技団体の中で権力を握る――そんな閉鎖的な図式は、インターナショナルな世界では通用しない。グローバルスポーツのサッカーだからこそ、プレーを通じて多様性を尊重する感覚を子供たちに学んでほしいし、指導者も広い視野を持って次世代の才能を導いてもらいたい。

(THE ANSWER編集部・谷沢 直也 / Naoya Tanizawa)

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喜熨斗 勝史

サッカーセルビア代表コーチ 
1964年10月6日生まれ。東京都出身。日本体育大学を卒業後、高校で教員を務めながら東京大学大学院総合文化研究科に入学。在学中からベルマーレ平塚(現・湘南ベルマーレ)ユースでフィジカルコーチを務めると、97年に教員を退職しトップチームのコーチとなる。その後セレッソ大阪、浦和レッズ、大宮アルディージャ、横浜FCを渡り歩き、04年からは三浦知良のパーソナルコーチを務める。08年に名古屋グランパスに加入してドラガン・ストイコビッチ監督の信頼を得ると、15年からは中国の広州富力、21年からはセルビア代表のコーチに招かれる。日本人としては初めて、欧州の代表チームのスタッフとして22年カタールW杯の舞台に立った。
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