ガーナ人の父を持つ日本人 境遇に悩まないボクサー岡澤セオンの「何に目を向けるか」という生き方
岡澤が「言われて一番嫌なこと」とは「黒人だから……」
――ボクサーですが、反射神経の良さは自分で感じますか?
「そこだけそんなにないんですよ。人よりも身体能力があると思うのは、ジャンプが少しできるくらい。ただ、『何か人よりできる人しかアスリートにいないけどね』と思います。それは僕が黒人だからではない。『黒人だからできてるんでしょ?』と言われるのは、少しムカつきますね。『いやいや、トップアスリートなんかみんな特別じゃん』って。
例えば短距離の選手に『やっぱり〇〇地方の生まれだからそんなに足が速いの?』って言う人はいないじゃないですか。その選手が凄いから凄いだけ。圧倒的に全てが違うレベルなら話は別ですが、『黒人だからバネが凄いでしょ?』と言われることには、『いや、バネが凄いヤツなんかたくさんいる。黒人だからバネが凄いんじゃなくて、俺が凄いからバネが凄いんだ』と思います。
でも、それが一番言われるし、一番嫌なことかもしれないです。僕は学校で少し足が速いだけ。何をやっても人より跳べたわけではないです。その時点で『黒人だから』という見方はなくならないですか? 人によって考え方は違うと思いますが、僕はそう思います」
――お話を伺っていると、ご自身のことを客観的に見られているように思えます。
「小さい頃から、想像がつかないくらい人に見られていると思います。例えば、すれ違うだけでも何度も見られる。これって僕らにしか絶対にわからないんです。だから僕がいま人からどう見えているのか、それを凄く考えるんですよ。だから、僕は僕のことをめちゃくちゃ理解している自信があります。
自分はどういう人間なのか、こういう時に何を感じるのか、ここで何をしたらどう見られるか。外からの目や自分のことをもの凄く考える。だから、他の人よりも喋ること、自分を良く見せることは得意。自分で良い人っぽくするのも上手いと思いますし、それは小さい頃から人よりも遥かに見られているから。(その境遇で)どうするのかの判断は人それぞれだと思います」
――客観視できることは、採点競技でもあるボクシングに生きているのでは。
「そうですね。人からどう見えているのか、考えられるのはありますね。でも、自分でコンプレックスだと思っていることは、実は意外と人から見たら違う。僕は自由に生きてそうに見られがちですけど、ボクシングが自分を表現できる場所なんです。普段の生活で自分の思ったことを何でも口に出せる時はほとんどないです。ベロベロに酔った時ぐらいですかね(笑)」