高め合う東北高の選手の姿に手応え

　子どもたち自身に考えさせることを第一優先としつつ、佐藤から伝えることももちろんある。ただ、伝えるのはごく当たり前のことだけだ。例えば、「分からない子がいたら分かる子が教えてあげる。初めて来た子や困っている子がいたら助ける」。人として当たり前のことだが、野球に没頭するなかで忘れがちなことでもある。

　伝えることは高校野球でも変わらない。東北高では選手たちに、「ライバル同士であっても、知っていることを教え合ってお互いを高めよう」と言い続けている。

　冬のある日、打撃練習を眺めていた佐藤は、1年生の打撃が上達していることに気づいた。自身の方針が間違っていないと、手応えを感じた瞬間だった。

「（自分が）プロ経験者で、（東北高監督になって）短期間で勝ってしまったから、周りには技術的なことを教えていると思われるけど、特別なことは何もしていない。どうしたら一生懸命やれる環境をつくれるか、風通しが良くなるか、楽しく野球ができるか。そういう発想です」

　佐藤の信念は揺るがない。（文中敬称略）

【第1回】“高校野球らしくない”指導でセンバツ有力　元巨人・佐藤洋監督が変えた東北高の練習風景

【第2回】甲子園4度出場も野球が「楽しくなかった」　元巨人・佐藤洋監督の原点にある苦い記憶