イングランド名門ほど規律徹底 UEFAプロ資格者の高野剛が目撃、日本と異なる選手を「導く」指導
イングランドの選手は「サッカー戦術原理の認識や理解が深い」
プレミアリーグのクラブでは、アカデミーにも用具係がいるので、ユニフォームも常に洗濯して畳んでロッカールームに用意されている。もしそれを選手たちにやらせたら、虐待を問われる可能性もあるそうだ。
「しかしマンチェスター・ユナイテッドでアカデミー・ダイレクターを務めていた頃のニッキー・バット(クラブのレジェンドで、プロライセンスは高野と同期受講)は、敢えてシャツも含めた用具の管理は個々の選手たちにやらせるようにしていました。当然明確な理由があってやらせていたわけですが、もし現場でハラスメントの可能性があれば、誰に連絡を取れば良いのか。そこはプレミアリーグが管理して明確にしていました」
日欧では、サッカーの指導の概念が異なるという。日本では「教える」のが指導だが、欧州では「導く」ものだと考えられている。
「日本では全体の選手たちにチームの戦術、色、スタイルなどを落とし込むことが『教える』ことになります。しかし欧州では、チームでのやり方を教えるようなトレーニングは行いません。そもそも連係や連動を意識してコンビで崩していくようなトレーニングは、ほとんどありません。『この状況になったらこうしていく』というシナリオをたくさん用意して、様々な局面を打開していけるように導いていくわけです。
だからイングランドの強さを一言で表すなら、サッカー戦術原理の認識や理解が深いので、選手たちが感じる当たり前のレベルが非常に高い。例えば10人の選手がいたら、カオス(混乱)に陥った時でも、次の状況が予測できていて、どうするべきかを判断できて、その理由も説明できるような選手が5割くらいいる。そういうベースを持った選手たちが、U16以上のトップに呼ばれる年齢に近づいた時に、チームのプレーモデル等を意識してプレーするようになるわけです」
20世紀には、アマチュア時代の日本の若年層のチームが海外へ遠征して大勝して帰ってくるケースが目についた。だが年齢を重ね大人に近づくにつれて両者の関係は逆転し、欧州や南米の強豪国は手の届かない存在になった。それは早くからチームとして勝つことを教え込む日本と、まずは個の土台を築いてからチームに昇華させていく欧州や南米の指導スタンスの違いに大きな要因があったと見て良さそうである。(文中敬称略)
(加部 究 / Kiwamu Kabe)